親が老人ホームや高齢者住宅へ入った後も、家をすぐ売ると決める必要はありません。
最初に確認するのは、施設入居が体験・一時・長期未確定・恒久見込みのどれか、自宅へ戻る可能性、親本人が家をどうしたいか、誰に管理や契約の権限があるかです。家が空く場合は、売るかどうかが未定でも、安全と管理を暫定的に整えます。そのうえで、施設費、家の維持費、必要な資金と期限を分け、売る・貸す・家族が使う・管理して残す・期限を決めて待つを比較します。
一時的な空き家か、長期・恒久見込みかを分ける
「施設に入った」という言葉だけでは、家を今後使わないと判断できません。
施設入居には、体験入居や短期利用、入院・リハビリ後の一時入居、長期入居だが継続は未確定、長期利用が見込まれている、本人と支援者が恒久的な住み替えとして確認しているなど、複数のパターンがあります。家が空く期間も、数日から数週間、数か月、一年以上、まだ決められない、家族や賃借人が使うため空き家にはならないなど、状況によって大きく異なります。
体験入居や一時入居なのに家財を処分したり売却を始めたりすると、本人が戻りたい時に選択肢を失います。一方、長期に空く見込みなのに管理担当や保険を確認しないと、建物や近隣への問題が生じる可能性があります。まずは施設の契約・利用期間と、家が空く見込みを暫定でも記録します。
家の所有者と親本人の希望を確認する
施設入居後に子どもが家を管理していても、家の所有者や契約当事者が変わるわけではありません。
確認すべきは、登記上の所有者が誰か、現在の居住者・利用者は誰か、鍵を持っている人、日常管理をする人、売却・賃貸・契約変更を判断できる人がそれぞれ誰かです。これらがすべて同じ人とは限りません。
親本人の希望も聞きます。自宅へ戻りたいか、しばらく戻れる状態で残したいか、家族に使ってほしいか、貸すことや売ることを検討してよいか、今は何も変えたくないか、まだ話したくないか。家族の介護負担、遠距離管理、施設費の不安が大きくても、それを親本人の売却意思として扱いません。
自宅へ戻る可能性を確認する
戻る可能性は、「医療的に戻れるか」だけではありません。
親本人が戻りたいと考えているか、一時帰宅や外泊を試す予定があるか、家の段差や設備や介護環境で生活できるか、通院や買物や見守りや家族支援を継続できるか、施設の退所・一時帰宅・契約変更条件がどうなっているか、家族が支援できる範囲はどこまでか。これらを「本人の希望」「施設側の見通し」「医療・介護上の条件」「家族の支援可能性」に分けて記録します。
戻る可能性が未確認なら、売却・長期賃貸・大規模な家財処分など、戻りにくくなる行動は保留します。
認知症・委任・成年後見は記事だけで判断しない
認知症の診断名、年齢、施設入居だけで、不動産取引の意思能力や代理権を判断することはできません。
家族が委任状を持っている場合でも、親本人が取引内容を理解し意思を示しているか、委任をした時点と現在の状況、委任の対象と範囲、本人確認の方法、後見等の制度が関係しているか、居住用不動産の処分で追加確認が必要かを確認します。「認知症なら売れない」「成年後見を使えば必ず売れる」「委任状があれば問題ない」とは書けません。
本人意思、判断能力への懸念、委任・後見・本人確認に未整理がある場合は、LT-022「認知症の親名義の家を売る前の確認」や司法書士・弁護士等への相談へ進みます。
売却を決める前に暫定管理を整える
家が空いたら、価格を調べる前に安全と管理を確認します。
緊急危険
倒壊や外壁落下の懸念、漏水や浸水や漏電や火災やガス、不法侵入や盗難や防犯上の問題、害虫や動物や衛生上の問題、隣地や道路への越境、台風や大雨や地震等の後の異常が見られる場合は、査定や片付けより安全確認を優先します。危険がある家へ家族だけで入らず、状況に応じた窓口や専門家へつなぎます。
鍵・写真・郵便・連絡先
最低限、以下を記録します。
- 鍵の保管場所と所持者
- 入室した人と日時
- 現在の家や設備の写真
- 郵便物の確認・転送方法
- 近隣から連絡を受ける人
- 災害や設備故障時の連絡順
保険・ライフライン・防犯
空き家になると、保険や設備の扱いが変わる場合があります。電気・水道・ガスを一律に解約する、一律に維持するとは決めず、季節、給湯・凍結、通水、警報、防犯、設備、管理方法を確認します。火災保険等も、空き家化後に従来と同じ条件で補償されると決めつけず、保険会社や代理店へ確認します。
管理担当と再確認日
管理担当は名前だけでなく、実際の役割を決めます。担当する作業は以下のとおりです。
- 巡回、換気、通水
- 庭、清掃、郵便
- 設備故障や修繕の連絡
- 近隣対応
- 災害後の確認
- 費用の支払いと記録
- 管理できなくなった時の代替担当
自主管理、家族分担、管理委託のどれを選ぶ場合も、対象作業、頻度、費用、対象外、見直す日を残します。空き家になった直後の確認は、LT-093「実家が空き家になったら何から始めるか」で詳しく整理します。
待つ期間の費用をゼロにしない
「今は売らずに様子を見る」場合も、費用は続きます。固定資産税・都市計画税、保険、電気・水道・ガス等、管理委託、巡回・清掃・庭・防犯、交通・宿泊・家族の時間、修繕・設備交換・緊急対応、マンションの管理費・修繕積立金など、家を保有し続けるコストを忘れてはいけません。
費用は、確認できた金額、見積中の金額、まだ分からない費用に分けます。未確認の修繕や緊急対応をゼロとして、待つ案を安く見せません。年間の費用を入力する場合は、LT-010「空き家の年間維持費」へ進みます。
施設費と家の売却資金を分ける
施設費が必要でも、家を売ることが唯一の資金方法とは限りません。
まず、施設入居時の一時費用(入居費、引越し、家財保管、家具・介護用品、契約や移動に伴う費用)と、施設・住居の月額費用(居住部分の費用、食費・生活支援、介護・医療に関する費用、追加サービス、今後変わる可能性がある費用)を分けます。さらに、家に残る費用(税、保険、管理、修繕、ローンや精算、家族の交通・作業)も別枠で把握します。
必要な資金と期限については、家を売らなくても賄えるか、将来不足する可能性があるか、いつまでにどの程度の資金が必要か、他の資金や支援制度を確認したかを整理します。査定額は、売却価格、売却後手残り、入金日ではありません。施設費へ使う場合は、価格、費用、ローン、税、売却工程を分けた手残りレンジと期間を確認します。
売る・貸す・残す・待つを比較する
施設入居後の家には、売却以外のルートもあります。暫定管理して施設継続や帰宅見通しを待つ、戻れる状態で残す、家族が利用する、貸す、売る、追加情報を確認してから決める、期限を決めて待つ、などです。
比較する時は、売却価格や家賃だけでなく、親本人の希望、戻る可能性、管理できる人、施設費と家の費用、資金が必要な期限、家財と引渡し条件、契約後に戻せる度合い、未確認事項、次の一工程を同じ視点で並べます。詳しい比較はLT-002「実家は売る・貸す・残す・待つ?」へ進みます。
家財・写真・仏壇・重要書類は処分前に保全する
施設入居後に家を整理する場合も、親本人の家財を自由に処分できるとは限りません。写真、重要書類、通帳、印鑑、契約書、貴重品、換価物、思い出の品、仏壇、位牌、宗教関係品のほか、親本人の所有物、兄弟姉妹や親族の所有物、相続財産に関係する可能性がある物、本人が施設へ持っていきたい物について、誰が移動・廃棄を決められるかを先に確認します。
片付けや処分を始める前は、LT-037「親の家を片付ける前に確認すること」へ進みます。
税特例は居住状況と時期で条件が変わる
施設入居後の家の税務は、入居したという事実だけでは決まりません。誰が所有しているか、いつまで住んでいたか、施設入居後に家をどう利用したか(貸した、家族が使った、空き家だった等の経過)、売却時期と方法、取得費・譲渡費用等の資料によって条件が変わります。
本記事では、特例の適用可否や税額を断定しません。税務署・税理士等へ相談する時は、施設入居日、居住状況、家の利用履歴、売却予定を整理して渡します。
次の判断日を決める
今は売らずに暫定管理する場合は、再判断日または変化条件を保存します。施設の体験・一時期間が終わる、親本人が帰宅または退所を希望する、施設の継続契約が確定する、家の管理担当が続けられなくなる、維持費や施設費の不足が見える、建物状態や近隣問題が変わる、本人意思・代理権・税務確認が進む、家族利用や賃貸の候補が具体化する、などが変化の目安になります。日付を決められない場合は、「何が変わったら見直すか」を記録します。
まとめ
親が施設へ入った後の家は、施設入居を売却意思とみなさず、次の順番で整理します。
- 体験・一時・長期・恒久見込みと、家が空く期間を分ける
- 親本人の希望、戻る可能性、能力懸念、権限を確認する
- 家が空く場合は安全・鍵・保険・郵便・ライフライン・管理を整える
- 施設費、家の費用、必要資金と期限を分ける
- 暫定管理・残す・家族利用・貸す・売る・待つを比較する
- 能力・代理権・税務・契約を必要な専門家へ確認する
- 家財を処分前に保全する
- 次の判断日または変化条件を保存する
今は家を手放さないという結果も有効です。暫定管理の担当と費用、本人意思、未確認、次の判断条件を保存し、状況が変わったところから再開します。
確認範囲
本記事は施設入居後の家について確認順を整理する一般情報です。意思能力、代理権、後見、税特例、個別税額、保険、建物安全、査定額、売却手残り、入金日を確定するものではありません。本人の明示意思と必要な専門確認なしに、売買・賃貸・退去・解体・家財処分等を実行しないでください。