実家を貸すことで家賃収入を得る選択はありますが、家賃は確実な収入ではありません。
貸す前に確認すべきリスクは、空室と賃料下落、修繕と原状回復の費用、管理と滞納と近隣対応、貸している間の自由利用の制限、将来売却するときの制約、税・保険・ローンの扱いです。すべての実家に同じリスクが起きるわけではないため、地域の賃貸需要、物件の状態、契約方法、管理体制、家族が戻る可能性を確認してから判断します。「貸せば確実な収入になる」という前提で進めず、費用と条件を並べて比較します。
空室と賃料下落のリスク
家賃収入は、入居者がいて、毎月滞りなく家賃が支払われて初めて成り立つものです。入居者が決まらない期間や家賃が下がる可能性は、貸す前に把握しておく必要があります。
地域の賃貸需要を確認する
実家が賃貸需要のある地域かどうかは、家賃収入の安定に直結します。周辺にどれくらいの募集物件があるか、入居者層が単身・ファミリー・学生・高齢者のどれにあたるか、駅や商業施設・病院へのアクセス、築年数や設備が現在の入居者ニーズに合っているかを確認します。郊外の戸建てや築の古い物件は需要が限られることがあり、立地や条件によっては入居者が決まりにくい場合があります。
家賃の相場は、ポータルサイトの近隣物件や管理会社への聞き取りで確認できますが、それはあくまで募集価格であり、入居が決まる価格や期間ではありません。募集価格をそのまま手取りとして計算しないようにします。
入居が決まるまでの期間を確定しない
募集を始めてもすぐに入居者が決まるとは限りません。決まらない期間は、固定資産税、保険、管理費、ローン、修繕費などの固定費がそのまま続きます。入居までの期間は物件の立地や状態、時期、募集価格によって変わるため、特定の期間を確定して計画を組みません。空室期間中の費用をゼロとして家賃収入だけを計算すると、見込みが楽になりすぎます。
募集にかかる費用を把握する
入居者募集には、仲介手数料、広告費、清掃、簡単なリフォームや設備交換、鍵の交換など費用がかかります。これらを家賃収入から回収できるとは限りません。管理会社に委託する場合は、募集費用と管理手数料が家賃からどのように差し引かれるかを事前に確認します。
修繕と原状回復の費用
貸す前、貸している間、退去後の三つのタイミングで修繕費用が発生する可能性があります。家賃収入からこれらを賄えるかは、物件の状態と設備の年式によります。
貸す前に修繕をどこまでやるか決める
入居者を募集する前に、設備の動作確認、水回りや給湯器の点検、空調や給排水設備の確認、内装の補修を行うことがあります。どこまで修繕するかは、入居者層と想定家賃、物件の築年数に応じて判断します。すべてを新品にする必要はない一方で、古い設備をそのままにすると入居が決まりにくく、入居後に故障の費用がかさむ場合があります。
入居中の設備故障に対応する
入居中に給湯器、エアコン、トイレ、給排水管などが故障した場合、修繕義務の範囲は契約と設備の取り決めによります。設備の経年劣化による故障は貸主の負担になることが多く、入居者の過失による破損は入居者の負担になることがありますが、個別の判断は契約内容と実際の状況に基づきます。設備が古いほど入居中の故障リスクは高くなり、修繕費用の発生頻度も上がります。
退去後の原状回復でトラブルになりやすい
退去時の原状回復は、入居者の原状回復義務と、経年変化・通常損耗の区分が争点になりやすい領域です。入居者の故意や過失による汚損・破損と、通常の住み込みによる劣化をどこまで分けるかは、契約書の特約と実際の状況によります。クリーニング費用、畳やフローリングの交換、クロスの貼り替えなどをめぐって、敷金からどこまで充当できるかで見解が分かれることがあります。国土交通省のガイドライン等が参考になりますが、個別事案の判断は契約と事実に基づきます。
管理と滞納・近隣対応
入居者が決まってからも、管理業務と金銭トラブルの対応が続きます。誰がどの作業を担うかを貸す前に決めておかないと、遠方や本業との兼ね合いで負担が重くなります。
自主管理か管理委託かを選ぶ
管理業務には、家賃の集金と入金確認、設備故障の連絡対応、修繕の手配、入居者からの問い合わせ、退去時の立会いと精算、近隣トラブルの対応などがあります。これらを自分で行う自主管理は管理手数料がかからない反面、時間と労力が必要です。管理会社に委託する場合は、集金、募集、修繕、トラブル対応のどれを委託するか、手数料が家賃の何割かを確認します。委託してもすべての責任が消えるわけではなく、修繕の判断や費用負担の最終決定は貸主に残ります。
遠方からの管理は負担が大きい
実家から離れて暮らしている場合、緊急の設備故障や漏水、入居者トラブルが起きた際の現地対応が難しくなります。交通費と時間、緊急時の対応体制、信頼できる現地の管理会社や家族の有無を確認します。遠方管理を安易に引き受けると、トラブル発生時に対応が遅れ、結果的に費用と負担が大きくなる場合があります。
滞納と未払いのリスクに備える
家賃の滞納は、入居者の経済状況の変化や連絡途絶によって起こり得ます。滞納が続くと、未回収の家賃、督促の時間と費用、最終的には明渡しの手続きと費用がかさむ場合があります。保証会社を利用するか、連帯保証人をつけるか、入居審査をどこまで厳格に行うかは、滞納リスクの軽減策として選択肢の一つです。ただし保証会社を利用しても未回収分の補填範囲や時期には条件があり、滞納が一切起きないことを保証するものではありません。
賃貸契約の種類で戻りやすさが変わる
実家を貸すときの契約の種類は、将来家族がその家を使いたくなった時の戻りやすさに大きく影響します。貸す前にどの契約にするかを決めることは、将来の選択肢を左右します。
普通借家契約
普通借家契約は、期間の定めがないか、あるいは期間を定めても更新が原則となる契約です。一度貸すと、貸主都合で途中解約するには正当事由が必要とされ、家族が戻りたくなってもすぐには明け渡してもらえない場合があります。家賃収入は得られますが、貸している間の自由な利用は制限され、いつでも戻れるとは限りません。
定期借家契約
定期借家契約は、あらかじめ決めた期間が満了すれば契約が終了する契約です。期間満了後に更新せず、家を取り戻す選択肢を取りやすいことが、普通借家との主な違いとして挙げられます。ただし、定期借家にすれば必ず希望通りに家を取り戻せるとは限りません。契約の方式、期間の設定、更新・再契約の条件、事前の通知の時期と方法など、個別の契約内容によって扱いが変わるため、事前に専門家と確認します。
使用貸借や親族間の貸し借り
家族や親族に無償で貸す場合も、口約束で済ませず、利用期間、目的、終了条件、家賃の有無、修繕の負担を書面で残すことが望ましいです。無償の貸し借りは後になって「貸した」「貸していない」「いつ返してもらえるか」で見解が分かれることがあり、売却や相続の場面で契約関係の確認が必要になります。
契約の種類や内容は借地借家法等の専門分野であるため、本記事では適用や効力を断定しません。どの契約を選ぶかは、司法書士や弁護士等の専門家に相談します。
将来売る場合の出口を考える
実家を貸す判断は、将来売却する時の選択肢にも影響します。貸している間に売るか、退去させてから売るかで、対象となる買主と売却工程が変わります。
賃貸中に売却する
入居者がいる状態で売却する場合、入居者付きの投資用物件として買主を探すことになります。買主は入居者の家賃収入を前提に判断するため、居住用として買いたい層とは対象が変わります。入居者の契約、家賃、敷金、滞納の有無、修繕の未処理事項は買主に引き継がれ、売却条件に影響する可能性があります。
退去させてから売却する
入居者に退去してもらってから空き家として売却する場合、普通借家契約では正当な理由なく退去を求めることは難しく、定期借家であれば期間満了を待つ必要があります。退去のタイミングは契約の種類と条件によります。退去後の原状回復や解体の費用、空室期間の固定費も考慮に入れます。
売却価格への影響を断定しない
賃貸歴のある家の売却価格が、空き家のまま売る場合と比べて高くなるか安くなるかは、物件の状態、入居者の有無、買主の目的、市場状況などによって異なります。本記事では売却価格への影響を断定しません。家の価値を調べる段階では、LT-006「実家の価値をどう調べるか」で確認する視点を整理します。
税・保険・ローンは貸す前に確認する
実家を貸すと、税金、保険、住宅ローンの扱いが変わる可能性があります。これらは貸し始めてからでは確認が遅れるため、貸す前に確認します。
税務
家賃収入は不動産所得となり、所得に応じて所得税や住民税がかかる可能性があります。固定資産税や都市計画税は継続してかかります。また、貸した後に売却する場合の税務の扱いは、居住していた期間や貸していた期間、売却時期によって条件が変わります。本記事では税額や特例の適用可否を断定しません。税理士や税務署に、所有状況、貸す予定、売却予定を整理して相談します。
保険
居住用として加入している火災保険は、賃貸に出すことで補償条件が変わる場合があります。賃貸用の保険に切り替えるか、家主賠償責任保険等を追加する必要があるかを、保険会社や代理店に確認します。空き家期間があってから賃貸に出す場合も、保険の扱いをその都度確認します。
住宅ローン
住宅ローンが残っている場合、貸すために金融機関の承諾が必要か、承諾なしで貸すと契約違反や一括返済を求められる条件がないかを確認します。親名義のローンを子が引き継ぐ、あるいは相続で名義が変わる場合も、ローン契約と抵当権の扱いを金融機関に確認します。
リスク軽減のチェックリスト
実家を貸す前に確認すべき項目を整理します。すべてを満たせばリスクがなくなるわけではありませんが、見落としを減らすための確認として使います。
- 地域の賃貸需要と周辺の募集物件の状況
- 物件の築年数、設備の年式、修繕の必要性
- 貸す前の修繕にかかる費用の見込み
- 賃貸契約の種類(普通借家・定期借家)と更新・終了の条件
- 管理方法(自主管理・管理委託)と委託する場合の手数料
- 遠方管理の場合の緊急時の対応体制
- 滞納対策(保証会社・連帯保証人・入居審査)
- 敷金の額と原状回復の範囲
- 税務(不動産所得、固定資産税、売却時の税務)
- 保険の切替(賃貸用火災保険、家主賠償)
- 住宅ローンの残債と金融機関の承諾要件
- 家族が戻る可能性と、戻る際の契約上の制約
- 将来売却する場合の出口と、貸している間の影響
売却・待つとの比較へ戻る
実家をどうするかは、貸すだけが選択肢ではありません。売却、そのまま残して管理する、家族が使う、期限を決めて様子を見るなど、複数のルートを比較して判断します。貸す場合の家賃収入と費用・リスクを、売却の一時金と手残り、保有し続ける維持費と同じ視点で並べます。家賃から管理手数料、修繕費、税金、空室リスクを引いた実際の手取りで比較することが大切です。貸した場合の手取り計算の詳しい仕様は、LT-019「貸した場合の手取り」で確認します。
詳しい比較は、LT-002「実家は売る・貸す・残す・待つ?」で整理します。親が施設に入った後の家で貸すを含めて検討する場合は、LT-004「親が施設に入った後の家はどうする?」で確認する順番を整理します。親が元気なうちに確認しておくべきことについてはLT-003「元気なうちに確認すべきこと」を、家族で話し合う際の視点はLT-007「家族会議で決めること」を参照してください。
まとめ
実家を貸す判断は、家賃収入を確定収入として前提にせず、次の順番で確認します。
- 地域の賃貸需要と入居が決まる見込みを確認する
- 貸す前・入居中・退去後の修繕費用を把握する
- 管理方法、滞納対策、遠方管理の負担を決める
- 賃貸契約の種類と、家族が戻る際の制約を確認する
- 将来売却する場合の出口を想定する
- 税・保険・ローンを貸す前に確認する
- 貸す・売る・残す・待つを同じ視点で比較する
- 専門家(借地借家、税務、保険、ローン)に必要な項目を確認する
貸すという結果にならなくても有効です。確認したリスクと条件、未確認事項、次に見直すタイミングを保存し、状況が変わったところから再開します。
確認範囲
本記事は実家を貸す前のリスクと確認事項を整理する一般情報です。賃貸契約の種類の適用と効力、税額・特例の有無、保険の補償範囲、住宅ローンの契約条件、売却価格、入居者の退去可否を確定するものではありません。借地借家法、税務、保険、ローンに関する個別の判断は、それぞれの専門家に相談してください。