制度・税金租税特別措置法第39条公開日: 2026年8月16日

空き家売却の取得費加算の特例とは?譲渡所得税の計算式・3000万円控除との違い・確定申告まで徹底解説

相続した空き家や実家の土地を売却する際、納付した相続税の一部を取得費(経費)に加算して譲渡所得税を減額できる「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)」。加算額の計算方法、複数相続人での按分実務、空き家3,000万円特別控除との有利不利の判定、確定申告の手順を解説します。

1. 取得費加算の特例の概要と二重課税調整の仕組み

不動産を相続すると「相続税」が課税されます。さらにその後、その不動産を売却して利益(譲渡所得)が生じると「譲渡所得税(所得税・復興特別所得税・住民税)」が課税されます。 同一の資産に対して相続税と譲渡所得税が二重に課されることによる過大な税負担を緩和するために設けられているのが、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)」です。

🏛️ 国税庁 タックスアンサー No.3267 に基づく制度の基本原則

本特例を適用すると、「納付した相続税額のうち、売却した不動産に対応する部分」を譲渡所得の計算上、取得費(経費)に加算することができます。 加算された金額分だけ課税譲渡所得が圧縮され、長期譲渡所得税率(20.315%)に応じた減税効果が得られます。

2. 取得費加算の特例 節税シミュレーター

売却価格、納付した相続税額、遺産の総額、売却不動産の評価額を入力して、加算額と特例適用による減税額・手取り額を試算できます。

TAX SAVINGS SIMULATOR

取得費加算の特例 節税シミュレーター

売却予定価格や納付した相続税額を入力すると、取得費加算額・譲渡所得税の軽減効果・手取り額を自動試算します。

1不動産売却・相続税の入力

万円
万円

※相続税申告書 第1表の納付税額

万円

※債務控除後の課税価格の合計

万円

※相続税申告書 第11表記載の評価額

万円
STEP 1:取得費加算額の計算

売却物件の遺産割合

40.0%

(3,200万 / 8,000万)

取得費に加算できる金額

240 万円

600万 × 40.0%

特例なし(通常申告)

課税譲渡所得:3,185 万円
譲渡所得税 (20.315%):647 万円
手取り金額:2,712 万円
特例適用後

取得費加算の特例(措法39条)

課税譲渡所得:2,945 万円
譲渡所得税 (20.315%):598 万円
手取り金額:2,761 万円

取得費加算の特例による節税効果(手取り増加額)

+ 約 48 万円

(加算額 240万円 × 長期譲渡税率20.315%)

⚖️ 「空き家3,000万円特別控除」との選択比較(参考)

・空き家3,000万円特別控除適用時の節税額: 609 万円(税額: 約37万円)

判定: 3,000万円特別控除の方が約560万円多く節税できます。要件(昭和56年以前建築、耐震改修または更地渡し、売却1億円以下等)を満たせる場合は3,000万円控除の選択を強く推奨します。

3. 法定計算式と複数相続人の按分実務

取得費に加算できる相続税額は、国税庁が定める法定算式に基づき厳密に計算されます。

📐 取得費加算額の法定計算式(国税庁様式基準)

取得費に加算される相続税額 =

その者が納付した相続税額 ×売却した財産の相続税課税価格÷その者の相続税課税価格合計(債務控除等後)+ 債務控除額

※加算額は「売却代金 − 本来の取得費 − 譲渡費用」で求めた加算前の譲渡益が上限となります。加算によって譲渡所得をマイナス(譲渡損)にすることはできません。

※出典: 国税庁 タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

👥 相続人が複数いる場合の按分計算実務

兄弟姉妹など複数の相続人がいる場合、取得費加算額は「相続人一人ひとり別個に計算」します。他の相続人が納付した相続税額を利用することはできません。

ケース例: 長男と次男が相続した場合

  • 長男: 相続税 800万円納付、実家の土地(評価額4,000万円)を単独取得
  • 次男: 相続税 200万円納付、預貯金(2,000万円)を取得
  • 長男の課税価格合計: 6,000万円(土地4,000万+他2,000万)
長男が実家を売却したときの加算額: 800万円 × (4,000万円 ÷ 6,000万円) = 約533.3万円※次男が納付した200万円の相続税は、次男が相続不動産を売却したわけではないため長男の計算には算入できません。

4. 先祖代々の土地(概算取得費5%)における節税効果試算

親や祖父から引き継いだ古い土地では、当時の購入契約書や領収書が紛失しており取得費が証明できないケースが少なくありません。 この場合、税法上の「概算取得費(売却代金の5%)」を適用することになり、売却代金の95%相当に譲渡所得税が課税されるため税負担が極めて重くなります。 取得費加算の特例は、この概算取得費5%に加算額をそのまま上乗せできるため、大きな減税効果を発揮します。

📊 売却代金別 取得費加算による減税効果シミュレーション(長期譲渡税率20.315%)

※概算取得費5%、譲渡費用売却額の約4%として試算(国税庁基準に基づく概算例)

売却代金納付相続税額取得費加算額特例なし税額特例適用後税額節税額(手取り増)
3,000 万円400 万円+200 万円554 万円514 万円40 万円
5,000 万円1,000 万円+600 万円928 万円806 万円121 万円
8,000 万円2,500 万円+1,750 万円1,487 万円1,131 万円355 万円
12,000 万円4,000 万円+3,200 万円2,234 万円1,584 万円650 万円

5. 「取得費加算の特例」vs「空き家3,000万円特別控除」の違いと単独活用法

空き家売却における2大減税制度である「取得費加算の特例(措法39条)」と「被相続人の居住用財産に係る3,000万円特別控除(措法35条3項)」は、同一の売却において重複適用(併用)することは認められていません。 それぞれの制度設計の違いを正しく把握し、物件や相続状況に応じた制度を選択する必要があります。

SYSTEM COMPARISON

「取得費加算の特例」vs「空き家3,000万円特別控除」制度比較表

両制度は同一不動産の譲渡において併用できません。適用要件・控除額・対象物件の違いを整理しました。

比較項目取得費加算の特例(措法39条)空き家3,000万円控除(措法35条3項)
根拠法令租税特別措置法第39条租税特別措置法第35条第3項
控除・加算額納付相続税額のうち売却物件按分相当額(譲渡益が上限)最大3,000万円(相続人3人以上の場合は1人あたり2,000万円)
相続税の納税要件必須(実際に相続税を納付した人のみ対象)不要(基礎控除内で相続税0円でも利用可能)
家屋の建築時期制限なし(昭和・平成・令和いずれも可)昭和56年(1981年)5月31日以前建築(旧耐震基準)限定
売却代金の上限上限なし(1億円超の物件でも全額対象)1億円以下(固定資産評価・分割売却合算判定)
解体・耐震改修要件不要(古家付き現状渡し・解体更地いずれも可)耐震改修または解体更地渡しが必須(2024年改正で買主解体容認)
売却期限相続開始の翌日から3年10ヶ月以内(申告期限から3年)相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
自治体の確認書不要(税務署への確定申告書類のみで完結)必要(市区町村発行の被相続人居住用家屋等確認書添付が必須)
A

「取得費加算の特例」が適合するケース

  • 新耐震基準の空き家: 昭和56年6月1日以降に建築された物件(3,000万控除の対象外)。
  • 売却代金が1億円超: 高額な土地・建物を売却した場合(3,000万控除は1億円超で全面除外)。
  • 古家付きのまま現状渡し: 解体費用(150万〜300万円)をかけず、耐震改修も行わずに売却したい場合。
  • 相続税額が多額: 納付した相続税額の按分額が3,000万円を超える大規模相続の場合。
B

「空き家3,000万円特別控除」が適合するケース

  • 相続税が0円(基礎控除以下): 納付した相続税がないため取得費加算が使えない場合。
  • 昭和56年5月以前の旧耐震空き家: 建物を解体(更地渡し・買主解体特約)または耐震改修して売却する場合。
  • 売却益が3,000万円以内: 相続税納税額按分よりも3,000万円控除の方が控除枠が大きく全額非課税にできる場合。
  • 売却代金が1億円以下: 制度の売却価額上限を満たしている場合。

🏢 空き家3,000万円控除が使えない物件での「取得費加算」単独活用法

空き家3,000万円特別控除は「昭和56年5月31日以前建築(旧耐震基準)」「売却額1億円以下」「耐震改修または解体更地渡し」「区分所有除く」など適用ハードルが非常に高く設定されています。 これに対し、取得費加算の特例は以下の物件でも制限なく単独適用が可能です。

昭和56年6月以降の新耐震空き家

平成・令和築の中古戸建や、新耐震基準の空き家は3,000万控除の対象外ですが、取得費加算なら納付相続税を控除可能です。

売却代金が1億円超の高額物件

都心部や広大な土地など売却総額が1億円を超えると3,000万控除は全額適用不可ですが、取得費加算には金額上限がありません。

古家付きのまま現状渡し売却

解体費用(150万〜300万円)を負担せず、古い建物をそのまま引き渡す場合でも取得費加算を適用できます。

分譲マンション(区分所有建物)

3,000万控除は一戸建て限定ですが、相続したマンションの売却にも取得費加算の特例は適用可能です。

6. 4つの適用要件とセルフチェック診断

取得費加算の特例を受けるための要件は国税庁により明確に規定されています。

REQUIREMENT CHECKLIST

取得費加算の特例 4つの適用要件セルフチェック

各設問に回答して、租税特別措置法第39条に基づく取得費加算の特例が適用可能か確認できます。

💡 空き家3,000万円特別控除と異なるメリット:「昭和56年6月以降の新耐震基準物件」「売却額1億円超」「解体せず古家付きのまま現状渡し」「区分所有マンション」でも、上記4要件を満たせばすべて取得費加算の特例を利用できます。
要件 1

【相続税の申告・納税】実際に相続税を納付しましたか(または納付予定ですか)?

本特例は納付した相続税額の一部を取得費に繰り入れる制度です。基礎控除以下で相続税が0円だった場合は加算額が発生しないため対象外となります。

要件 2

【売却期限】相続開始日(死亡日)の翌日から【3年10ヶ月以内】の引渡し・決済ですか?

相続税申告期限(10ヶ月)の翌日から3年以内が法定要件です。売買契約日ではなく「代金決済・所有権移転日」基準での完了が原則となります。

要件 3

【取得原因】売却する不動産は【相続または遺贈】によって取得しましたか?

被相続人から相続または遺贈(死因贈与含む)で直接取得した財産が対象です(通常の生前贈与で取得した資産は対象外)。

要件 4

【譲渡益の発生】不動産の売却代金が「取得費+譲渡費用」を上回り、利益(譲渡益)が出ていますか?

譲渡損(売却赤字)が出ている場合、取得費を加算しても控除すべき利益がないため減税効果は生じません(加算によって赤字を拡大させることはできません)。

7. 3年10ヶ月の売却期限ルールと期限徒過時の代替的節税手段

取得費加算の特例には厳格な時間的期限が設定されています。

⏳ 適用期限: 相続開始の翌日から「3年10ヶ月以内」

法律上の定義は「相続税の申告期限(相続開始日の翌日から10ヶ月)の翌日以後3年を経過する日まで」です(租税特別措置法第39条第1項)。 実質的に「被相続人の死亡日の翌日から3年10ヶ月以内」となります。

重要判定基準: 契約日ではなく「引渡し日(決済日)」

原則として物件の引渡し(所有権移転登記・代金決済)を3年10ヶ月以内に完了している必要があります。不動産売却には査定から契約・決済まで通常3〜6ヶ月を要するため、余裕を持ったスケジュール設定が必要です。

⚠️ 3年10ヶ月の期限に間に合わなかった場合の税務上の代替手段

万が一3年10ヶ月の期限を過ぎてしまった場合、取得費加算の特例は適用できなくなりますが、以下の公的税制措置・経費精査により税負担を軽減できる余地があります。

  • 1. 譲渡費用の徹底的な計上:
    仲介手数料(消費税含む)、売買契約書の印紙税、境界確定測量費用、建物解体撤去費用、売却のために支払った立退料や登記費用などを漏れなく控除し、課税所得を圧縮します。
  • 2. 居住用財産の3,000万円特別控除(措法35条1項)の検討:
    相続人が自らその家に一時的にでも生活の本拠として居住した後に売却する場合、自己の居住用財産としての3,000万円特別控除が適用できるか検討します(単なる税対策の一時的居住は不可)。
  • 3. 他の譲渡所得との損益通算:
    同一年に他の不動産の売却で譲渡損失(赤字)が生じている場合、または特定居住用財産の譲渡損失の損益通算制度などの対象となるかを確認します。

8. 必要書類と確定申告の4ステップ手順

取得費加算の特例を適用するためには、売却した翌年の確定申告期間(2月16日〜3月15日)に所轄税務署へ明細書を添付して確定申告を行う必要があります。

実務フロー相続税申告書確認から確定申告・添付書類まで

取得費加算の特例を適用する「4ステップ確定申告フロー」

過去の相続税申告書控えの確認から国税庁所定の計算明細書作成、譲渡所得の内訳書への転記、所轄税務署への確定申告までの手続きを整理しました。

01
書類収集・数値確認

相続税申告書控え・売却関連書類の準備と基礎数値の確認

過去に提出した相続税申告書の控え(第1表『相続税額の申告書』、第11表『相続税がかかる財産の明細書』等)を用意し、納付税額、取得財産の課税価格合計を確認します。併せて、売買契約書、領収書(仲介手数料・印紙税・解体費・登記費用等)を収集します。

02
国税庁明細書の作成

「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」の作成

国税庁所定の明細書様式に、納付相続税額、売却した土地・家屋の相続税評価額、相続人本人の課税価格合計を記入し、法定算式に基づき取得費に加算できる金額を算定します(加算額は加算前の譲渡益が上限となります)。

03
内訳書作成・税額算定

譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)への転記と税額計算

譲渡所得の内訳書(土地・建物用)の「取得費」欄に、本来の取得費(実額または5%概算額)とステップ2で算出した取得費加算額を合算して記載します。譲渡費用を差し引いた課税譲渡所得金額に長期譲渡税率(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)を乗じて税額を計算します。

04
確定申告・添付提出

確定申告期間(売却翌年2/16〜3/15)における申告書提出

売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に、所轄税務署へ確定申告書B・申告書第三表(分離課税用)・譲渡所得の内訳書・取得費加算の計算明細書・相続税申告書控えの写し等を添付して申告・納税を行います。

📋 取得費加算の特例申告時に税務署へ提出・添付する主な書類

  • 確定申告書B(第一表・第二表)および申告書第三表(分離課税用)
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】
  • 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書(国税庁所定様式)
  • 相続税申告書の控えの写し(第1表、第11表、第14表・第15表等)
  • 売却時の不動産売買契約書の写し(譲渡価額・引渡し日の確認)
  • 売却にかかった費用の領収書写し(仲介手数料・測量費・解体費・登記費用等)
  • 取得当時の売買契約書・領収書の写し(実額取得費を採用する場合のみ)

9. よくある質問(FAQ)

実務上でよく寄せられる疑問点と国税庁基準に基づく回答を整理しました。

Q&A併用ルール・新耐震・複数相続人・期限徒過

取得費加算の特例に関する「よくある質問(FAQ)」

空き家3,000万円控除との選択基準、昭和56年以降の新耐震物件での活用、先祖代々の土地(5%概算)での上乗せ計算、3年10ヶ月の期限に関する実務上の疑問点を解説します。

A

同一の不動産の売却において両特例を併用することはできません(租税特別措置法関係通達35-5等)。どちらか一方を選択して確定申告を行う必要があります。一般に、納付した相続税額が多く譲渡益が大きい場合は取得費加算が、旧耐震基準の空き家を解体または耐震改修して売却する場合は3,000万円特別控除が税負担軽減において有利となる傾向があります。

かんたん診断

空き家のこれから、まずは方向性を考えてみませんか?

答えを急がなくても大丈夫です。いくつかの質問から、管理・活用・売却のどこを先に確認すべきか整理できます。

診断をはじめる
家の状況から今後の方向性を整理する線画
  1. 01

    家の状況をチェック

    場所や建物の状態を、わかる範囲で確認します。

  2. 02

    ご希望や事情を選択

    使う・貸す・手放すなど、今のお考えを整理します。

  3. 03

    方向性をご提案

    次に確認したいことを、優先順でお伝えします。