売る・手放す法テラス・裁判所・法令に基づく整理公開日: 2026年8月16日

任意売却と競売の違いとは?メリット・デメリットを残債・退去・信用情報・税金まで比較解説

住宅ローンの返済が困難になり、実家や自宅を手放す場面で選択肢になるのが「任意売却」と「競売」です。両者はどこがどう違い、残る借金や退去、信用情報、税金にどんな影響があるのか。日本司法支援センター(法テラス)・裁判所の公式説明と法令(民事執行法・所得税法等)に基づいて整理します。

1. 任意売却と競売はどこが違うのか ― 2つの手続の全体像

住宅ローンの返済が困難になると、抵当権(担保)が付いたままの不動産をどう手放すかが問題になります。このときの出口は大きく2つに分かれます。債権者の合意を得て通常の不動産取引として売る「任意売却」と、債権者の申立てにより裁判所が強制的に売却する「競売」です。

手続 1

任意売却(当事者の合意による売買)

日本司法支援センター(法テラス)は、任意売却を「裁判所の競売手続によらずに、通常の不動産取引として住宅を売却する手続」と定義し、「売却代金は住宅ローンの残額に充てられますが、競売手続よりも高い金額での取引が期待できるため、抵当権者も応じてくれる場合があります」と説明しています。内覧や販売活動は一般の売買と同様に行え、退去時期などの条件も売買条件として協議できます。

手続 2

競売(裁判所による強制換価)

東京地方裁判所は競売手続を「債権者の申立てにより、裁判所が、債務を弁済することができなくなった債務者の所有する不動産を差し押さえて、これを売却し、その代金を債務の弁済にあてる手続」と説明します(民事執行法)。期間入札による入札・開札を経て買受人が決まり、物件情報は裁判所の「BIT」で公告されます。所有者の意思とは関係なく進行するのが任意売却との本質的な違いです。

🧭 どちらでも「残債」は残る

任意売却でも競売でも、売却代金はあくまで債務の弁済に充当されるだけで、ローンが帳消しになる制度ではありません。差し引きの違いは「どれだけの金額で売却でき、その結果いくらの残債が残るか」です。このため意思決定の軸は、①売却価格、②退去までのプロセス、③費用、④税務・信用情報への影響、の4点になります。

2. 違いの比較表 ― 手続・価格・退去・残債・税金・信用情報

任意売却と競売の違いを、実務上問われる10の項目で整理します。それぞれの記述は法テラス・裁判所の公式説明と法令(民事執行法・所得税法・宅地建物取引業法等)に基づきます(出典は記事末尾)。

比較項目任意売却合意による通常の売買競売裁判所による強制換価
手続の性質債権者の合意を得た「通常の不動産取引」(法テラス)債権者の申立てによる裁判所の強制換価手続(民事執行法)
進め方の主体所有者(売主)・不動産会社・債権者の合意裁判所(不動産執行)。所有者の意思によらず進行
売却価格市場での販売活動による。競売手続より高い金額での取引が期待できると法テラスが説明買受可能価額(売却基準価額の10分の8)以上での期間入札による落札額
内覧・販売活動通常の売買と同様に内覧対応・広告掲載が可能内覧は前提とされず、3点セット(物件明細書・現況調査報告書・評価書)と現地の外観確認が主
情報の公開一般の媒介広告と同じ扱い(所有者の経済事情は広告に表示されない)裁判所(BIT)に物件情報・入札期間・売却基準価額等が公告され、誰でも閲覧可能
退去退去時期・引越しの条件を売買条件として協議買受人の引渡命令(民事執行法第83条)→ 強制執行(明渡執行)につながる可能性
残債売却額(手数料等控除後)を弁済に充当。残りは残債として協議落札額から執行費用等を控除した配当原資を弁済に充当。残りは残債として残る
費用の負担仲介手数料等(宅建業法の法定上限が上限)評価・現況調査等の執行費用は手続内で処理されるが、売却額から控除される
税務通常の譲渡として譲渡所得の申告を要する場合(非課税規定は原則対象外)資力を喪失した状態の強制換価手続なら譲渡所得が非課税とされ得る(所得税法9条1項10号)
信用情報手続名自体の登録はなし。ローン滞納の事実(61日以上等の遅れ)は「異動」として登録され得る同左(手続名の登録はなし。滞納・代位弁済等の事実が登録され得る)

※競売物件の落札結果(売却価額)は裁判所の「BIT 不動産競売物件情報サイト」で照会できます。落札額と市場価格の差について公的な集計値は公表されていないため、本記事では特定の倍率を提示していません。

3. 残債比較シミュレーター ― 「任意売却で売る」と「競売になる」

任意売却時の想定売却額(査定額)と住宅ローン残高、競売になった場合の想定落札額を入力して、売却後に残る債務(残債)の差を確認できます。競売の落札額や執行費用の相場には公的な公表値がないため、いずれも実際の数値を入力する設計です。

TOOL実査定・実残高の数値を入力して残債の差を確認

任意売却 vs 競売 残債比較シミュレーター

「任意売却で売る」場合と「競売にかけられる」場合の、売却後に残るローン残債(債務)を比較します。 競売の落札額や執行費用の相場には公的な公表値がないため、買受可能価額(売却基準価額の10分の8)以上を想定した数値を入力してください。

100万円1億円

※不動産会社複数社の査定額を入力してください。

※返済予定表・残高証明書の金額を入力してください(売却額より多い場合が債務超過です)。

※競売では入札は買受可能価額(売却基準価額の10分の8)以上で行われます。落札額の相場は公表されていないため、買受可能価額以上の想定値を入力してください。

※競売手続の評価・現況調査等に要する費用の想定値です(申立て時の予納金等。物件により異なります)。

SIMULATION RESULT

2つの手続で変わる「残る債務」の比較

任意売却の方が残債が少なくなります

874 万円

残債の差(競売後の残債 − 任意売却後の残債)

プランA: 任意売却(通常の不動産取引)

想定売却額3,000 万円
仲介手数料(上限・税込)106 万円
債務弁済に充当2,894 万円
売却後に残る債務606 万円

プランB: 競売(裁判所による換価)

想定落札額2,100 万円
執行費用等80 万円
債務弁済に充当(配当原資)2,020 万円
競売後に残る債務1,480 万円

※売却額・落札額・執行費用はユーザー入力のシナリオです。仲介手数料は宅地建物取引業法の法定上限(速算式・税込)で計算し、配当順位(複数債権者・遅延損害金・予納金の精算等)は簡略化しています。実際の配当・残債は債権者構成や手続の進行状況により異なるため、弁護士等の専門家・債権者に確認してください。

💡 競売の「買受可能価額」とは

競売では、不動産鑑定士等の評価に基づいて裁判所が売却基準価額を定め、入札はその10分の8に当たる買受可能価額以上の価格で行われます(民事執行法第64条の4)。東京地方裁判所の説明では、入札価格は公告に記載された買受可能価額以上でなければならず、買受けの申出には通常売却基準価額の20%の保証の提供が必要です。シミュレーターには、この買受可能価額以上を想定した落札額を入力してください。

4. それぞれの仕組みと流れ ― いつ・誰が・どう進むか

4-1. 滞納から競売までの流れ

住宅ローンの返済を滞納すると、金融機関から督促・催告が行われます。多くの住宅ローン契約には、一定期間の滞納で期限の利益を喪失する(残額全額を一括返済しなければならない)特約が設けられています。また民法第137条は、債務者が強制執行や担保権の実行としての競売の申立てを受けた場合などには、債権者が期限の到来を待たずに期限の利益を失わせることができると定めています。期限の利益を喪失した状態で弁済がなければ、抵当権者(金融機関・保証協会等)は民事執行法に基づく担保不動産競売の申立てを行います。

競売手続の段階内容(東京地方裁判所の説明・民事執行法に基づく)
競売開始決定債権者の申立てにより裁判所が開始決定。不動産が差し押さえられ、現況調査と評価が行われる
公告・3点セットの閲覧入札期間初日の15日前(東京民事執行センターの運用)に公告書が掲示。物件明細書・現況調査報告書・評価書(3点セット)は誰でも閲覧可能。BITにも掲載
期間入札東京民事執行センターでは通常8日間の入札期間。入札は買受可能価額(売却基準価額の10分の8)以上。保証は通常売却基準価額の20%
開札・売却許可決定最も高い価額の入札者が最高価買受申出人となり、売却決定期日に売却の許否が決まる
代金納付・登記許可決定確定後、通常約1か月以内に代金を納付。所有権移転登記が嘱託され、抵当権等は原則抹消
配当・引渡命令代金は執行費用等を控除して債権者に配当。占有者に対しては買受人が引渡命令(民事執行法第83条)を申し立てられ(代金納付日から通常6か月以内)、確定後は強制執行による明渡しが可能

※競売には判決等の債務名義に基づく「強制競売」と、抵当権等の担保権の実行としての「担保不動産競売」があります(BIT「不動産執行手続の流れ」参照)。住宅ローン滞納で金融機関等が行うのは通常、後者の担保権実行です。

4-2. 任意売却の流れと前提

任意売却は法律上の独立した手続ではなく、抵当権が残ったままの不動産を、債権者の合意を得て通常の不動産取引として売却する私法上の対応です。法務省「競売制度研究会報告書」も、任意売却を「抵当権等を解除するとともに抵当不動産を第三者に売却し、その代金から債権回収を行う」ものとして整理しています。法テラスが説明するとおり「競売手続よりも高い金額での取引が期待できるため、抵当権者も応じてくれる場合がある」――債権者にとって回収額の見通しが競売より良ければ合意する合理性があるのです。一方で、債権者の合意が得られなければ任意売却は成立しないこと、買主が現れるまでの販売期間が必要なことが、競売と比べた不確実性になります。

⚠️ 競売開始後の切り替えは「時間」が鍵

競売が始まった後でも、債権者の合意と買受人が確保できれば、申立ての取下げなどにより任意売却に結びつく場合があります。ただし競売は公告された入札期間・開札期日を区切りとして進行するため、切り替えの検討は早い段階(できれば督促・催告の段階)から弁護士等の専門家に相談することが重要です。

5. いま何を確認すべきか ― 5つのセルフチェック

返済の状況、債務超過の可能性、競売手続の通知の有無、住まいの方針、相談の進み具合。この5つの質問に答えることで、自分の状況がどの段階にあるかを整理できます。

ELIGIBILITY CHECKLIST

任意売却・競売 5つのセルフチェック

返済状況から相談の進み具合まで、いまの状況を確認できます。当てはまる選択肢をタップしてください。

チェック 1

住宅ローン(抵当権付きの借入)の返済を【滞納している、または今後の返済が困難】ですか?

返済の遅れが続くと、契約の特約に基づく「期限の利益の喪失」(残額の一括返済義務)が問題になります。民法第137条は、強制執行や担保権の実行としての競売の申立てを受けた場合など、法定の期限の利益喪失信由も定めています。

チェック 2

家の推定売却額より【ローン残高が多い可能性】(債務超過)がありますか?

査定額よりローン残高が多い場合、売却しても抵当権を抹消する資金が足りないため、通常の売却(ローン完済売却)ではなく任意売却の検討対象になります。不動産会社複数社の査定で推定売却額を確認しましょう。

チェック 3

金融機関・保証機関から【督促状・催告書、または競売手続の通知】を受け取りましたか?

競売(担保不動産競売)は債権者の申立てで始まり、競売開始決定がなされると現況調査・評価・期間入札へ進みます。通知が届いている段階では、公告された入札期間・開札期日との時間的な関係が対応の余地を左右します。

チェック 4

【住まいの方針】(住み続けたい・早く退去したい等)を整理していますか?

任意売却は通常の売買のため退去時期などの条件を協議できます。競売では買受人の引渡命令(民事執行法第83条。代金納付日から原則6か月以内に申立て)と強制執行による明渡しにつながる可能性があります。リスケジュール(返済条件の変更)など他の選択肢の検討も含めて整理しましょう。

チェック 5

【法テラス・弁護士・任意売却に詳しい不動産会社】のいずれかに相談しましたか?

任意売却は債権者の合意が前提となるため、交渉の見通しを含めて専門家の判断が必要です。日本司法支援センター(法テラス)は住宅ローンの支払が困難な場合の相談窓口を設けています。

※すべての項目に回答すると診断結果が表示されます。

6. 任意売却を検討する「5ステップ手順」

数値の整理 → 専門家への相談 → 債権者の合意 → 売却・配当 → 退去と税務。任意売却の実務はこの順で進みます。特に「相談」と「債権者の合意」が成否を分けるステップです。

実務フロー現状の整理から引越し・税務まで

任意売却を検討する「5ステップ手順」

数値の整理、専門家への相談、債権者の合意、売却・配当、退去と税務までを整理しました。

01
現状の整理

ローン残高・滞納状況・推定売却額の数値を集める

住宅ローンの残高と滞納月数、金融機関・保証機関から届いた督促状や催告書の内容を整理します。あわせて不動産会社への査定依頼などで推定売却額を把握しておくと、任意売却と競売のどちらを検討する状況かを判断する材料になります。

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02
相談

法テラス・弁護士・任意売却に詳しい不動産会社に相談する

住宅ローンの支払が困難な状況では、日本司法支援センター(法テラス)の「よくある相談」をはじめ、弁護士や任意売却の実績がある不動産会社への早期相談が整理の出発点になります。競売が既に始まっている場合は、公告された入札期間・開札期日との関係で対応の余地が変わるため、早めの相談が重要です。

⚠ 注意: 「任意売却できる」と保証する業者に安易に依頼せず、複数の相談先で説明を比較してください。
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03
債権者の合意

金融機関(債権者)への合意依頼と媒介契約・売却活動

任意売却は「債権者の合意を得て通常の不動産取引として売却する」手続です。媒介契約を結び、売却活動を始めるにあたり、債権者(金融機関・保証協会等)に対して売却方針の理解と同意を得る手続きを進めます。内覧対応や価格交渉も通常の売買と同様に行えるのが競売との違いです。

💡 債権者の合意が得られなければ任意売却は成立しません。合意の条件は債権者ごとに異なります。
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04
売却・決済

売買契約・決済・配当(抵当権の抹消と弁済)

買主が決まれば売買契約を締結し、決済時に売却代金を債務の弁済に充当します。通常の取引と同じく抵当権の抹消登記が行われ、複数の債権者がいる場合は配当(弁済の割当)の手続きになります。残債がある場合は、売却後の返済方針を債権者と協議します。

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05
引越し・税務

退去・引越しと確定申告・残債の返済開始

引渡し後に引越しを済ませ、残債の返済を開始します。税務上は、競売など強制換価手続による譲渡で資力を喪失している場合には譲渡所得が非課税とされ得る一方(所得税法第9条第1項第10号)、任意売却は通常の譲渡として扱われるのが原則のため、確定申告の要否を含めて所轄税務署や税理士に確認します。

実務チェックリスト(クリックで確認完了)

7. よくある質問(FAQ)

競売の落札価格、残債の行方、退去と引渡命令、引越し費用、信用情報、税金、競売開始後の切り替え、相続した実家の場合まで、よくある疑問に回答します。

Q&A実務の疑問と制度的な整理

任意売却と競売「よくある質問(FAQ)」

残債の行方、退去、引越し費用、信用情報、税金、競売開始後の切り替えまで、よくある疑問に回答します。

A

日本司法支援センター(法テラス)は、任意売却を「裁判所の競売手続によらずに、通常の不動産取引として住宅を売却する手続」と説明しています。これに対し競売は、債権者の申立てにより裁判所が不動産を差し押さえて売却し、その代金を債務の弁済に当てる手続です(民事執行法。東京地方裁判所の説明参照)。つまり「所有者と債権者の合意による通常の売買」か「裁判所による強制的な換価手続」かが最大の違いで、売却価格への影響、内覧・販売活動の可否、退去までのプロセス、費用の負担が変わります。

8. まとめ ― 意思決定の軸は「残債・時間・生活再建」

任意売却と競売の比較で押さえる3つのポイント

  • 性質の違いを理解する ― 任意売却は債権者合意による通常の売買(法テラス)、競売は債権者の申立てによる裁判所の強制換価(民事執行法)。所有者の意思で進められるかどうかが最大の違い
  • どちらも残債は残る ― 売却代金は債務の弁済に充当されるだけ。競売手続より高い金額での取引が期待できる(法テラス)任意売却の方が、残債を減らせる可能性がある分、納税・返済の負担を軽くしやすい
  • 時間軸を先に確認する ― 競売は公告された入札期間・開札期日を区切りに進行し、買受人の引渡命令から強制執行につながる。相談が早いほど選択肢が広がるため、督促の段階から法テラス・弁護士への相談を

出典・参考(公的資料)

本記事の制度記述・数値は、以下の公的資料(e-Gov法令検索・裁判所・法務省・日本司法支援センター・国税庁・国税不服審判所・指定信用情報機関CIC)に基づきます。競売落札額・執行費用の相場は公的な公表値が確認できないため、本記事では提示していません。

※本記事は制度の一般的な説明であり、個別の債務・取引への助言ではありません。競売手続・任意売却の進行、残債の処理、税務の取扱いについては、弁護士・司法書士・税理士、取引を仲介する宅建業者、および物件を管轄する地方裁判所の案内で個別にご確認ください。

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