売る・手放す盛土規制法(令和5年5月26日施行)対応公開日: 2026年8月16日

擁壁がある空き家・物件は売れる?「がけ条例」と宅地造成等規制法の仕組み、売却時の費用と手続きのまとめ

実家の空き家に古い擁壁がある、不動産会社から「がけ条例が絡む」と言われた――そんな所有者が直面するのは「売れるのか」「工事費は誰が負担するのか」「何を確認すればよいのか」という疑問です。本記事では、建築基準法第19条第4項と自治体の建築基準条例(がけ条例)、そして旧・宅地造成等規制法を改正した「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」の制度を公的資料に基づいて整理し、売却までの手順と費用の考え方を解説します。

1. 擁壁がある物件・空き家は売れるのか ― まず押さえる2つの制度

結論から言えば、擁壁やがけがあること自体が売却を法的に妨げるものではありません。売買は当事者の契約で成立します。ただし、買主が住宅建替えや増改築を検討する段階で「がけ条例」と「宅地造成及び特定盛土等規制法(旧・宅地造成等規制法。以下、改称後の制度を含めて「盛土規制法」と呼びます)」という2つの規制が動き出すため、売却前にこの2つの制度的な位置づけを整理しておく必要があります。

制度 1

がけ条例(自治体の建築基準条例)

建築基準法第19条第4項(「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」)を受け、各都府県・政令指定都市が条例で定める建築物の配置ルール。多くの自治体で高さ2mを超えるがけが閾値となり、例として東京都建築安全条例第6条は「がけ高の2倍以内の水平距離の範囲に建築する場合は高さ2mを超える擁壁の設置」を原則としています(緩和規定あり)。

制度 2

盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)

宅地造成等工事規制区域内の切土で高さ2m超・盛土で高さ1m超のがけを生じる工事等(施行令第3条)に知事(政令市・中核市域は市長)の許可を要求する制度。擁壁の技術的基準(鉄筋コンクリート造・間知石練積み造等:施行令第8条〜第12条)、宅地の維持努力義務(第22条)と改善命令(第23条)を定めます。令和4年5月27日の改正公布・令和5年5月26日施行で罰則が強化されました。

🧭 売却の可否と規制の関係

この2つは「建て替え・造成するときの許可・確認の基準」「宅地の保全の制度」であり、「擁壁がある物件の所有者に売却前の工事を義務付ける制度」ではありません。売主に求められるのは、規制区域の指定や擁壁の状態といった事実の確認と買主への適切な告知です。買主側にとって建替え時の制約・費用は購入判断の材料になるため、価格交渉に反映されることはあります。

2. 売却戦略シミュレーター ― 「工事して売る」vs「現状で売る」

擁壁物件の売却で検討するのが、売主が擁壁の改良等の工事をしてから売るプランと、現状のまま売って擁壁対応を買主に委ねる(値引きで調整する)プランの比較です。擁壁工事費の単価相場は国・自治体の公表値がないため、実際の見積額と査定額を入力して、手取りの損益分岐を確認してください。

TOOL実見積・実査定の数値を入力して損益分岐を確認

擁壁物件 売却戦略シミュレーター

「擁壁の改良等の工事をしてから売る」場合と「現状のまま売る」場合の手取り概算を比較します。 工事費・値引き額には公的な相場公表がないため、実際の見積額・査定額を入力してください。

100万円1億円

※擁壁工事費の公的な単価相場は公表されていません。専門事業者の見積額を入力してください(自治体によっては助成制度があります)。

※買主側の擁壁対応負担を見込んだ値引き交渉の想定額です。複数社の査定・買主候補の反応をもとに設定してください。

SIMULATION RESULT

2つの売却プランの手取り比較

工事をしてから売却する方が有利

+87 万円

差し引き額(工事後売却の手取り − 現状売却の手取り)

プランA: 工事をしてから売却

売却額2,000 万円
擁壁工事費300 万円
仲介手数料(上限・税込)73 万円
手取り概算1,627 万円

プランB: 現状のまま売却

売却額(値引き後)1,600 万円
仲介手数料(上限・税込)59 万円
手取り概算1,541 万円

※工事費・値引き額は実見積・実査定に基づく入力シナリオです。仲介手数料は宅地建物取引業法の法定上限(速算式・税込)で計算し、譲渡所得税・登記費用等は含みません。工事による売却額への影響は保証されるものではありません。実際の売却にあたっては、不動産会社・擁壁工事の専門事業者・自治体の建築・宅地関係窓口で個別にご確認ください。

💡 費用負担を軽くする公的制度

自治体によっては擁壁の安全対策工事の助成制度があります。例として仙台市の「宅地擁壁の安全対策工事等に係る支援制度」(令和4年3月創設)は、恒久対策工事として工事費用100万円を超えた額の1/3(上限200万円)、応急対策として費用の1/2(上限60万円)を助成します(対象: 高さ2m超かつ平成18年9月30日の宅地造成等規制法改正前に造られた擁壁)。国の「宅地擁壁の変動予測調査」(国庫補助交付率1/3)も、地方公共団体等を通じた擁壁の危険度調査・防災対策を支援しています。制度の有無・条件は自治体ごとに異なるため、物件所在地の建築・宅地関係窓口で確認してください。

3. がけ条例・盛土規制法の仕組み ― 許可基準・技術基準・罰則

買主の建替え検討や行政対応を理解するために、制度の要点を整理します。旧・宅地造成等規制法(昭和36年法律第191号)は、令和4年5月27日公布の改正法(令和4年法律第55号)により「宅地造成及び特定盛土等規制法」に改称し、令和5年5月26日から施行されています(国土交通省・農林水産省共管)。

3-1. 許可がいるのはどんな工事か(施行令第3条)

工事の内容許可要件の目安
切土(土地を掘り下げる)高さ2mを超えるがけを生じるもの
盛土(土地を盛り上げる)高さ1mを超えるがけを生じるもの
切土・盛土の面積500㎡を超える宅地造成

※「がけ」の定義は「地表面が水平面に対し30度を超える角度の土地」(施行令第1条)。宅地造成等工事規制区域内では、これらの工事に着手する前に知事(政令市・中核市区域内は市長)の許可が必要です(盛土規制法第12条)。都市計画法第29条の開発許可を受けた工事は許可があったものとみなされます。

3-2. 擁壁の技術的基準(施行令第8条〜第12条)

許可に伴う擁壁の技術的基準では、擁壁は鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造又は間知石練積み造その他の練積み造とすることとされ(第8条)、構造計算により転倒・滑動・沈下に対する安全の確認(第9条)、練積み造擁壁の上端厚・根入れの基準(第10条・別表第四)、壁面積3㎡以内ごとに内径7.5cm以上の水抜穴と透水層の設置(第12条)などが定められています。高さ5mを超える擁壁の設計には土木・建築の有資格者が必要です(第21条)。

⚠️ 昭和の空き家に多い「基準外擁壁」

国土交通省は、平成23年東北地方太平洋沖地震・平成28年熊本地震で空石積造擁壁(コンクリートで固めない石積み)や増し積み擁壁(既存擁壁の上部へのブロック積み増し)に多くの被害が発生したことを公表し、技術基準を満たさない擁壁への注意喚起を行っています。また、宅地造成等工事規制区域内で1mを超える既存擁壁を引き続き使用する場合は許可の要否に関わらず調査・報告書の提出が必要とする運用(吹田市)など、自治体によって既存擁壁の扱いが定められています。建替えを想定する買主にとっては、これらの擁壁の建替え・改良が費用の論点になります。

3-3. 放置できるのか ― 維持努力義務・改善命令・罰則

規制区域内の土地の所有者・管理者・占有者には「宅地造成等に伴う災害が生じないよう、その土地を常時安全な状態に維持するように努めなければならない」という努力義務があります(旧法第16条第1項/現行法第22条第1項)。擁壁が設置されていない・極めて不完全で放置すると災害発生のおそれが大きい宅地には、行政が擁壁等の設置・改造、地形若しくは盛土の改良のための工事を命令できます(改善命令: 旧法第17条/現行法第23条)。現行法では罰則が強化され、無許可工事等は3年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金(法人への重科は3億円以下)、改善命令違反は1年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(第55条・第56条・第61条)とされています。

なお、建物の解体(空き家の更地化)自体は盛土規制法の許可対象ではありませんが、規制区域内で高さ2mを超える擁壁の除却工事は、盛土規制法第21条第3項に基づく着手14日前までの届出対象です(同法または都市計画法の許可を取得して行う工事は届出不要)。高さ2mを超える擁壁の新設・改築は建築基準法第88条の工作物確認申請・完了検査(検査済証)の対象にもなります。

4. 我が家の擁壁はどこから確認する? 5つのセルフチェック

高低差の有無から公的記録、変状の有無まで、売却準備の進み具合を5つの質問で確認します。変状が見られる場合は、価格の話の前に国交省「我が家の擁壁チェックシート(案)」等による点検と専門家の調査が優先です。

ELIGIBILITY CHECKLIST

擁壁・がけ条例 5つのセルフチェック

高低差の有無から変状の有無まで、売却準備の進み具合を確認できます。当てはまる選択肢をタップしてください。

チェック 1

敷地または隣地との間に【高さ2mを超える高低差(がけ・擁壁)】がありますか?

宅地造成及び特定盛土等規制法(旧 宅地造成等規制法)の許可基準は切土2m超・盛土1m超のがけを対象とし(施行令第3条)、自治体のがけ条例(建築基準条例)も高さ2m超を閾値にするものが多いため、まず高さ2mが目安になります。

チェック 2

自治体の建築指導課等で【規制区域の指定・がけ条例の適用】を確認しましたか?

宅地造成等工事規制区域・造成宅地防災区域・土砂災害警戒区域の指定の有無と、がけ条例(離隔距離・擁壁設置基準)の適用範囲は物件所在地の市区町村で確認できます。

チェック 3

擁壁の形式が【宅造法の技術的基準に適合する形式】(RC造・間知石練積み造等)だと確認できますか?

施行令では鉄筋コンクリート造・無筋コンクリート造・間知石練積み造等が擁壁の形式とされ(第8条)、空石積みやブロックの増し積みは国交省が地震被害を実証した形式として注意喚起しています。

チェック 4

擁壁の【建築確認・検査済証や宅造法の許可】などの公的記録が揃っていますか?

高さ2m超の擁壁の築造は建築基準法第88条の工作物確認(完了検査・検査済証)の対象です。記録があれば買主への説明資料として活用できます。

チェック 5

目視点検で【ひび割れ・水の染み出し・継ぎ目のずれ・擁壁の傾き】などの変状はありませんか?

国交省「我が家の擁壁チェックシート(案)」等の点検項目を参考にしてください。変状がある場合は専門家による調査が優先されます。

※すべての項目に回答すると診断結果が表示されます。

5. 自治体確認から引渡し・確定申告までの5ステップ

擁壁・がけ条例物件の売却は「事実確認 → 点検 → 売却方法の検討 → 契約時の告知 → 引渡し後の税務」の順で進めるのが実務的な流れです。特に契約時の告知は、民法の契約不適合責任(第562条〜第566条)との関係で重要になります。

実務フロー自治体確認から引渡し・確定申告まで

擁壁・がけ条例物件を売却する「5ステップ手順」

自治体での規制確認、擁壁の点検、売却方法の検討、契約時の告知、引渡し後の税務までを整理しました。

01
最初にやる確認

自治体で規制区域・がけ条例の適用と公的記録を確認

物件所在地の市区町村(建築指導課・宅地関係窓口等)で、宅地造成等工事規制区域・造成宅地防災区域・土砂災害警戒区域などの指定の有無と、自治体のがけ条例(建築基準条例)の適用範囲を確認します。あわせて擁壁の建築確認・検査済証(建築基準法第88条の工作物確認)や宅造法の許可記録の有無を確認します。

💡 造成宅地防災区域内である旨は宅建業法上の重要事項説明事項(施行規則第16条)
実務チェックリスト(クリックで確認完了)
02
現況確認

擁壁の点検(国交省チェックシート)と変状の記録

国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」や「わが家の宅地安全マニュアル」の点検項目を参考に、大きなひび割れ・茶色い水の染み出し・継ぎ目のずれ・擁壁の傾きなどの変状を確認・記録します。変状が見られる場合や高さ2m超の擁壁は、行政の改善命令の文脈も踏まえ、土木・建築の専門家による調査を検討します。

実務チェックリスト(クリックで確認完了)
03
戦略決定

売却方法の検討と複数査定(現状売却 / 工事後売却 / 買取)

「現状のまま売る」「擁壁の改良等の工事をしてから売る」「専門買取へ売る」の選択肢を、工事見積額と査定額に基づいて比較します。工事費や値引き額の相場は物件条件により大きく異なるため、本記事のシミュレーターには実見積・実査定の数値を入力して損益分岐を確認します。

💡 仙台市など擁壁助成制度を持つ自治体では工事費の一部助成(条件付き)がある場合があります
実務チェックリスト(クリックで確認完了)
04
契約

状況告知と重要事項説明・契約書の整備

擁壁の状態・点検結果・規制区域の指定は、契約書および重要事項説明で適切に伝えます。買主に知らせずに売却すると、民法の契約不適合責任(第562条〜第566条。不適合を知った時から1年以内の通知で追完・減額・損害賠償・解除を請求可能)の対象になり得ます。仲介取引では宅地建物取引業法第35条の重要事項説明で規制区域の旨が説明されます。

⚠ 注意: 告知を省略した場合、売却後に契約不適合責任を追及されるリスクがあります。
実務チェックリスト(クリックで確認完了)
05
引渡し後

引渡し・確定申告(工事費の取り扱い確認)

引渡し後、譲渡所得の確定申告(原則、翌年2月16日〜3月15日)で擁壁工事費の取り扱い(譲渡費用/資本的支出)を整理します。相続空き家であれば「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除(最大3,000万円)」や「相続税の取得費加算の特例」の適用可否も併せて確認します。

実務チェックリスト(クリックで確認完了)

6. よくある質問(FAQ)

売却可否、工事義務、告知義務、更地化の届出、公的助成、特定空家、税務上の取り扱いなど、現場でよくある疑問に回答します。

Q&A実務の疑問と制度的な整理

擁壁・がけ条例物件の売却「よくある質問(FAQ)」

売却可否、工事義務の有無、告知義務、解体時の届出、公的助成、税務上の取り扱いまで、よくある疑問に回答します。

A

売却自体は可能です。宅地造成及び特定盛土等規制法(旧 宅地造成等規制法。令和5年5月26日施行の改正で改称)の擁壁に関する技術的基準は、宅地造成工事の許可等に係る基準であり、既存の擁壁があるだけで直ちに売却が法的に妨げられるものではありません。ただし、買主が建物を建て替える際には現行の技術的基準(鉄筋コンクリート造・間知石練積み造等:施行令第8条)に適合する擁壁が必要となるため、価格交渉の要因になることがあります。また、宅地造成等工事規制区域内では、擁壁が設置されていない・極めて不完全な状態のまま放置すると災害発生のおそれが大きい場合に行政の改善命令(現行法第23条)の対象になり得ます。

7. まとめ ― 擁壁物件の売却は「事実確認と告知」から

擁壁・がけ条例物件の売却で押さえる3つのポイント

  • 売却前に工事は義務ではない ― がけ条例は建替え時の配置基準、盛土規制法は造成の許可と宅地保全の制度。売主に求められるのは事実の確認と買主への適切な告知
  • 自治体確認と点検を先に ― 規制区域の指定・がけ条例の適用・検査済証の有無を市区町村で確認し、国交省チェックシートの項目で変状を記録
  • 費用は実見積で比較し助成も確認 ― 工事費の公的単価相場はないため複数見積を取得。自治体の擁壁助成制度(例: 仙台市)や国の変動予測調査(補助1/3)の有無を確認

出典・参考(公的資料)

本記事の制度記述・数値は、以下の公的資料(e-Gov法令検索・国土交通省・自治体公式ページ)に基づきます。擁壁工事費の単価相場は国・自治体の公表値が確認できないため、本記事では提示していません。

※本記事は制度の一般的な説明であり、個別の物件・取引への助言ではありません。規制の適用・手続き・税務については、物件所在地の市区町村(建築指導課・宅地関係窓口等)、専門家(税理士・司法書士・土木建築の技術者)、取引を仲介する宅建業者の確認が必要です。

かんたん診断

空き家のこれから、まずは方向性を考えてみませんか?

答えを急がなくても大丈夫です。いくつかの質問から、管理・活用・売却のどこを先に確認すべきか整理できます。

診断をはじめる
家の状況から今後の方向性を整理する線画
  1. 01

    家の状況をチェック

    場所や建物の状態を、わかる範囲で確認します。

  2. 02

    ご希望や事情を選択

    使う・貸す・手放すなど、今のお考えを整理します。

  3. 03

    方向性をご提案

    次に確認したいことを、優先順でお伝えします。