「成約価格」と「取引価格」は何が違うのか
不動産の価格情報を見るとき、「成約価格」と「取引価格」という言葉が混在していて違いが分かりにくい、という声は少なくありません。両者を整理しておきます。
成約価格とは、実際に売買が成立した価格、つまり「最終的に買手が支払い、売手が受け取った価格」です。国土交通省の「成約価格情報」は、この実際の成立価格を不動産流通ネットワーク(REALS/REINS)を通じて集めたデータで、2021年第1四半期から2025年第4四半期までの5年分が公開されています。対象は中古マンション等と宅地(土地と建物)で、土地だけの取引(宅地・土地)は含まれません。
一方、取引価格情報(国土交通省「不動産取引価格情報」)は、出物、すなわち物件が公開された時点の希望価格をベースに整備されたデータです。こちらは2005年から2025年までの長期間・3種別(土地のみ・土地と建物・中古マンション等)をカバーしますが、必ずしも「実際に成立した価格」とは限りません。
つまり両者は、**「希望価格ベースの出物情報」と「実際の成立価格」**という別の段階を映したデータであり、根本的に別物です。本記事では、この両者がどれくらい違うかを、坪単価(1坪あたりの価格)の中央値を使って、できるだけ条件を揃えて比べます。なおデータ規模として、成約価格情報は620,296件、不動産取引価格情報は3,478,685件です(出典:国土交通省 不動産取引価格情報・成約価格情報)。
マンションの値下げ幅はどれくらいか
両者の違いを最も読み取りやすい中古マンション等で見ます。都道府県×種別ごとに両データセットをマッチングし(両側ともN≥30、価格100万円未満は除外)、坪単価の中央値同士で「乖離率」を算出します。ここでいう乖離率とは (取引価格の中央値 − 成約価格の中央値) ÷ 成約価格の中央値で、プラスなら取引価格(希望価格ベース)が成約価格を上回る、つまり値下げして成約する余地があることを示します。
集計の結果、中古マンション等の乖離率の中央値は+2.9%(47セル・2021年第1四半期〜2025年第4四半期)でした。大多数のセルで取引価格情報が成約価格を数パーセント上回っており、提示された希望価格から数%程度値下げして成約に至る構造が、マンションではおおむね成り立つと読めます。
ただしセルごとのばらつきは大きく、範囲は**−17.2%〜+71.4%**に及びます。大きくプラスに振れるセルや、逆に成約価格が取引価格を上回る(マイナスの)セルも混在しており、「マンションは一律に数%値下げされる」という単純な見方はできません。中央値の+2.9%は、全国の都道府県別セルの真ん中あたりの目安と捉えてください。
直近5年で値下げ幅はどう変わったか
次に、直近5年(2021〜2025年)の年次推移を見ます。成約価格情報が存在するのはこの5年だけですので、両者を比べられる期間はちょうどここに限られます。
| 年 | マンション 乖離率中央値 | セル数 |
|---|---|---|
| 2021年 | +6.1% | 45 |
| 2022年 | +2.9% | 47 |
| 2023年 | +3.2% | 46 |
| 2024年 | +4.5% | 44 |
| 2025年 | +6.9% | 44 |
年次の乖離率中央値は**2021年+6.1%、2022年+2.9%、2023年+3.2%、2024年+4.5%、2025年+6.9%**と、全5年でプラス(取引>成約)を保ちました。値下げして成約する構造が期間を通じて継続していることが分かります。一方で、年による水準のブレ(+2.9%〜+6.9%)もあり、「右肩上がりに拡大している」「縮小一方である」といった断定的なトレンド判断は控えるべきです。数パーセントの値下げ余地が、年を追うごとに安定して存在する水準と捉えるのが穏当です。
都市別で見る開き
全国の都道府県単位よりも細かく、市ごとに乖離を見ると、地域差がはっきり現れます。市×年四半期のセル(両側N≥30・12四半期以上)で集計した中古マンション等の乖離率中央値です。
| 市(区) | 乖離率中央値 | 四半期セル数 |
|---|---|---|
| 神戸市兵庫区 | +69.6% | 13 |
| 大阪市東淀川区 | +53.7% | 15 |
| 福岡市博多区 | +42.4% | 18 |
| 名古屋市中区 | +38.0% | 20 |
| 千代田区 | 0.0% | 19 |
| 名古屋市昭和区 | −7.8% | 12 |
| 柏市 | −15.0% | 19 |
| 札幌市北区 | −18.0% | 19 |
乖離が大きい側では、神戸市兵庫区が+69.6%(成約約113万円/坪・取引約198万円/坪)、大阪市東淀川区+53.7%、福岡市博多区+42.4%、名古屋市中区+38.0%と、取引価格情報が成約価格を大きく上回ります。ただし、これほど大きな数値には「両データセットは異なる集計パイプラインに由来する」という要素も混入しているため、純粋な値引き幅として額面どおり受け取るべきではありません。参考値として、希望価格と成約価格の間に大きな落差が出やすいエリアがある、と読むのが安全です。
一方、乖離がほぼない、あるいは逆転する都市もあります。千代田区は0.0%(成約約451万円/坪・取引約446万円/坪でほぼ同水準)、名古屋市昭和区−7.8%、柏市−15.0%、札幌市北区−18.0%です。都心の一部では提示価格と成約価格が近接し、郊外や地方の一部では成約価格が取引価格を上回るセルが出ます。「提示価格から必ず値下げされる」という前提は地域によって崩れることが、データから分かります。
戸建ては方向が逆転する(参考・測定上の注意)
マンションと同じ条件で、宅地(土地と建物)つまり戸建てを集計すると、傾向が大きく変わります。乖離率の中央値は**−37.5%**(範囲−70.7%〜+17.4%・46セル)で、成約価格が取引価格情報を大きく上回る方向に逆転します。
ここで注意が必要なのは、このマイナスの乖離は「戸建てが希望価格を上回って必ず高く売れる」ことを意味しない、という点です。成約価格情報と取引価格情報は、もともと異なる集計パイプライン(前者は実際の成立価格の報告、後者は出物希望価格ベース)で作られた別のデータセットであり、土地と建物を合わせた戸建てでは両者の価格基準が特に食い違いやすくなります。そのため同一パイプラインの比較とは言えず、戸建ての負の乖離は「測定上の差」として捉え、過度な解釈や値上がり予測に使うべきではありません。物件種別によって乖離の方向と意味が変わることだけを、事実として記しておきます。
査定額と成約価格のギャップに備える
ここまでのデータを整理します。「成約価格」と「取引価格」は別の段階の情報であり、中古マンション等では乖離率中央値+2.9%で取引価格が成約価格を数パーセント上回り、値下げして成約する余地がおおむね読めます。年次では2021〜2025年の全5年でプラスを維持し、都市別では都心部の近接(千代田区0.0%)から郊外の逆転(札幌市北区−18.0%)まで開きがある。戸建てではデータ上の理由で方向が逆転するが、これは測定上の差であり、値上がりの根拠にはならない、というのがデータから読める構造です。
売却を検討する際、特に気をつけたいのが「査定額(あるいは公開希望価格)」と「実際の成約価格」の差です。本記事の乖離率はあくまで過去データの分布に基づく目安であり、個別物件の成約価格を保証するものではありません。物件の階数、方位、築年、管理状態、権利関係などによって実際の成約価格は大きく動きます。無料査定を依頼からご相談いただければ、物件固有の条件を踏まえたうえで、現実的な成約価格水準をご案内できます。
集計条件: 出典=国土交通省「不動産取引価格情報・成約価格情報」/集計期間=2021年第1四半期〜2025年第4四半期(両データセットの重複期間・成約データはこの5年のみ存在)/単位=坪単価(tsubo_price)の中央値(MEDIAN)/算術平均は不使用(坪単価の外れ値汚染を避けるため)/乖離率=(取引中央値−成約中央値)÷成約中央値・正=取引>成約(値下げ余地)・負=成約>取引(データパイプラインの測定差)/マッチ粒度=都道府県×種別(全体・年次)および市×種別×年四半期(都市別)/両側ともN≥30の組合せのみ採用/価格100万円未満は除外/成約価格情報の対象種別=中古マンション等・宅地(土地と建物)(宅地=土地のみは含まない)/異なるデータセットの単純な全国中央値は値引き率として使用せず、同粒度マッチングで算出した値のみ使用/戸建ての負の乖離は測定上の差であり値上がり予測の根拠ではない
出典: 国土交通省 不動産取引価格情報・成約価格情報