「築古は安い」はどれだけ頑健か
中古住宅を売ろうとするとき、多くの人が気にするのは「築年が進んでも坪単価はどれだけ保つか」です。まずはこの前提が全国規模でどの程度頑健か、成約データで確認します。
集計条件を先に示しておきます。出典は国土交通省「不動産取引価格情報・成約価格情報」、期間は成約価格情報 2021〜2025年(5年)、単位は坪単価の中央値、価格100万円未満の取引は除外、駅×種別×築年帯でそれぞれ N≥30 を満たす組合せのみを対象としました。
全国レベルで築年帯ごとの中央値を並べると、傾きは明確です。
- 築0-20年の坪単価中央値: 1,498,621円(N=279,535件)
- 築31年超の坪単価中央値: 569,964円(N=193,699件)
- 比率: 約0.38倍(-62%)
築31年超は築0-20年の 約0.38倍(-62%)で、坪単価ベースで4割強の水準に落ちます。「築が進むと坪単価は下がる」という構造は、279,535件と193,699件という十分な N を踏まえれば、全国集計としては頑健な傾向と言えます。
タイプ別に分けると
上記の坪単価は戸建て(宅地(土地と建物))とマンション(中古マンション等)を混ぜた数字です。両者は坪単価の分母が異なります——戸建ては「土地面積あたり」、マンションは「専有面積あたり」——ため、同じ坪単価でも意味が違います。タイプ別に分けて見ると次のようになります。
| タイプ | 築0-20年坪単価 | 築31年超坪単価 | 下落率 | N(新/古) |
|---|---|---|---|---|
| マンション(中古マンション等) | 2,100,145円 | 760,331円 | −63.8% | N=154,556 / N=126,754 |
| 戸建て(宅地(土地と建物)) | 871,524円 | 283,352円 | −67.5% | N=124,979 / N=66,945 |
タイプ別に見ても、「築31年超の坪単価が築0-20年の3〜4割に下がる」という構造は変わりません。マンションは−63.8%、戸建ては−67.5%で、混在値(−62%)と概ね同水準です。マンションの坪単価が戸建てより高いのは、分母が専有面積(狭い)だからです——土地そのものの価値が高いわけではありません。
マンションの土地・建物分解について: マンションは区分所有により土地が共有権の扱いになるため、公示地価を使って土地価値と建物価値を分離すること(T-035 で戸建てに適用した手法)はできません。本記事ではマンションの坪単価の生値をそのまま提示します。土地価値ベースの減価曲線を見たい場合は T-035 一戸建ての売却相場 をご参照ください(戸建て専用)。なお、本記事の3駅分析(広尾・品川・原宿)はマンション専用です。
ただし、これは全国の中央値です。「では、立地が良い駅ではこの傾向が逆転するのでは?」という問いを立て、駅ペア単位で掘り下げます。
築31年超が新築以上の駅を探したら0駅だった
「築31年超 ≥ 築0-20年」という厳密な条件で駅を探しました。同一の駅で、築0-20年と築31年超がそれぞれ N≥30 を満たすペア(駅×種別)は 1,180ペア あり、サンプルとしては十分な広がりがあります。
この1,180ペアのなかで、築31年超の坪単価中央値が築0-20年の中央値を上回る、あるいは同等の駅を数えます。結果は次のとおりです。
- 該当駅数: 0駅(0.0%)
原案(「築31年超 ≥ 築0-20年 の駅があるか」)は否定されました。厳密な意味で築31年超が築0-20年を上回る駅は、1,180ペアのなかに一つも存在しません。「立地が良ければ築古でも新築並みに高い」という想定は、まずはデータで否定された形です。
「実質同等」まで緩めても全国3駅のみ
では、条件を少しゆるめて「実質同等」まで許容するとどうなるか。築31年超が築0-20年の -10%以内(坪単価ベースで1割未満の差)に収まる駅を数えました。
- 該当駅数: 3駅(0.25%)
- 閾値: -10%(実質同等の定義)
さらに閾値を -15%以内 まで広げても、結果は同じ 3駅 のみでした。つまり、「築31年超が築0-20年に近い水準を保つ駅」は、全国1,180ペアのなかで3駅(0.25%)しか存在せず、閾値を広げても候補は増えません。
この3駅だけが、全国で唯一「立地が築年差をほぼ吸収している」ように見える例外です。
広尾・品川・原宿: 3駅の例外
該当する3駅はいずれも東京・山手線の内側です。各駅のマンションについて、築年帯別の坪単価中央値と old_vs_young_pct(= (築31年超中央値 − 築0-20年中央値) / 築0-20年中央値)を並べます。
| 駅 | 築0-20年坪単価 | 築31年超坪単価 | old_vs_young_pct | N(新/古) |
|---|---|---|---|---|
| 広尾(東京都渋谷区) | 6,244,261円 | 6,170,800円 | -1.2% | N=155 / N=55 |
| 品川(東京都港区) | 4,272,092円 | 3,896,104円 | -8.8% | N=582 / N=32 |
| 原宿(東京都渋谷区) | 4,099,173円 | 3,724,517円 | -9.1% | N=45 / N=42 |
広尾は old_vs_young_pct が -1.2% で、築31年超でも築0-20年とほぼ同じ坪単価水準を保っています。品川(-8.8%)と原宿(-9.1%)は広尾より差が開きますが、いずれも -10%以内に収まり、全国で3駅しかない「実質同等」の事例に該当します。
ただしN数には注意が必要です。広尾の築31年超は N=55、品川は N=32、原宿は N=42 と、築0-20年側(広尾 N=155、品川 N=582、原宿 N=45)に比べて件数が少なめです。3駅は「実質同等」ではあるものの、参照値として読むのが適切です。個別物件の価格を断定するものではありません。
なぜこの3駅か: 立地ブランドが築年差を吸収
ここで自然に浮かぶ疑問は「この3駅は建物が新しいから保っているのでは?」です。建築年代で確認すると、答えは否定的です。
各駅の築31年超物件について、建築年の中央値と旧耐震(1981年着工以前)の割合を調べました。
| 駅 | 築31年超の建築年中央値 | 旧耐震割合 | 分母N |
|---|---|---|---|
| 広尾 | 1979年 | 58% | N=125件 |
| 品川 | 1979年 | 77% | N=44件 |
| 原宿 | 1971年 | 88% | N=42件 |
3駅とも築31年超物件の建築年中央値は昭和50年代で、旧耐震(1981年着工以前)の割合は58%〜88%に達します。原宿に至っては建築年中央値が1971年、旧耐震割合88%です。つまり「新築に近いから保っている」わけではありません。建物は古いまま、坪単価だけが築0-20年に近い水準で推移しています。
参考までに、建築年代ごとの全国中央値も並べておきます(成約・全国・建築年代別)。
- 旧耐震(<1981年着工): 479,339円(N=82,048件)
- 1981年〜1994年着工: 619,835円(N=130,120件)
- 1995年〜2004年着工: 1,101,927円(N=128,813件)
- 2005年以降解工: 1,558,443円(N=239,386件)
全国では建築年代が新しいほど坪単価中央値が高くなる構造が数字で見えます。それにもかかわらず、3駅では築31年超(多くが旧耐震)の坪単価が築0-20年に並んでいます。建物の新しさではなく、広尾・品川・原宿という立地そのもののブランド性が築年差を吸収している、と読むのがデータ上の素直な解釈です。
結論: 立地が築年に勝つのは「極めて稀」
データを整理します。
- 厳密な意味で築31年超が築0-20年を上回る駅は、全国1,180ペア中 0駅(0.0%)
- 「実質同等(-10%以内)」まで緩めても 3駅(0.25%)のみ。閾値を-15%以内に広げても同じ3駅
- その3駅(広尾・品川・原宿)はいずれも東京山手線内側で、建物は古い(旧耐震割合58%〜88%)
「立地が良ければ築古でも価値が保つ」という見方は、3駅(0.25%)という極めて狭い範囲で成立する例外です。大部分の駅では、築年が進めば坪単価中央値は下がる構造が頑健に働いています。
これは「築古は避けるべき」という投資助言ではありません。売却を検討する際、自分の物件が「立地が築年に勝つ3駅の例外」に該当するか、それよりも「築年が坪単価を決める多数派の構造」に入るかを、データの枠組みとして知っておくことが目的です。立地信仰を校正するための数字、と捉えてください。
あなたの検討物件は?
記事の数字は過去5年(2021〜2025年)の構造を示すもので、将来の価格を保証するものではありません。自分の物件が広尾・品川・原宿のような例外に近いのか、それとも全国1,180ペアの多数派(築年が坪単価を決める構造)に入るのかは、所在地・種別・築年・立地を踏まえた個別の見立てが必要です。
成約データに基づく客観的な目安を得るなら、無料査定を依頼 からご相談ください。値下げの構造を駅別に見たい場合は 関連: 値下げマップ(T-001) も合わせてご参照ください。
集計条件: 出典=国土交通省「不動産取引価格情報・成約価格情報」/期間=成約価格情報 2021〜2025年(5年)/単位=坪単価の中央値/価格100万円未満は除外/駅×種別×築年帯でそれぞれ N≥30/築年帯の定義: 築0-20年=取引年−建築年が0-20、築31年超=同31以上/old_vs_young_pct=(築31年超中央値 − 築0-20年中央値) / 築0-20年中央値/タイプ別内訳の全国中央値は宅地(土地と建物)と中古マンション等を別々に集計(戸建ては土地面積あたり・マンションは専有面積あたりの坪単価)。マンションは土地共有権のため公示地価による土地・建物分解は適用外(T-035 の分解モデルは戸建てのみ)。
出典: 国土交通省 不動産取引価格情報・成約価格情報