売る・手放す2023年(令和5年)民法改正対応公開日: 2026年8月15日

【2023年民法改正】空き家の相続放棄でも管理義務は残る?「現に占有」の基準・予納金と国庫帰属の比較を徹底解説

「実家の空き家は要らないから相続放棄すれば終わり」――2023年(令和5年)4月1日施行の民法改正後は、そう単純ではありません。放棄しても「現に占有している」財産は引き渡すまで管理(保存)義務が残り、相続人全員が放棄した場合は相続財産清算人の予納金が発生する事例があります。本記事では改正後のルール、占有の判定基準、そして現況売却・解体更地売却・相続土地国庫帰属との総コスト比較までを公的資料に基づいて整理します。

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本記事は「空き家をどう手放すか」の出口別収支比較(相続放棄 vs 現況売却 vs 解体更地売却 vs 相続土地国庫帰属)を主扱いします。相続放棄後の管理責任・保存義務の法的リスク(倒壊・損害賠償責任)の詳細判定は、相続専門サイトの「実家を相続放棄しても建物の管理責任は残る?」(保存義務・民法940条の正本)が担当します。あわせて、空き家の残された建物を売却する場合の exit 比較は空き家売却 vs 買取更地と古家付きどっちが得?も参照してください。

1. 空き家の相続放棄とは――「初めから相続人とならなかった」ものとみなす制度

相続が開始すると、相続人は①単純承認(すべて承継)②相続放棄(一切承継しない)③限定承認(プラス財産の限度で債務も承継)のいずれかを選択できます(民法913条〜939条)。相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の権利義務を一切受け継がない意思表示で、家庭裁判所への申述によってのみ行えます(民法938条1項・裁判所「相続の放棄の申述」)。放棄が受理されると、その相続に関しては「初めから相続人とならなかったもの」とみなされます(民法939条)。

つまり空き家の名義や固定資産税の納税義務を承継せずに済む一方で、空き家に売却価値があったとしても売却益を手にする権利も失われる点が制度の両面です。申述期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」(民法915条1項)と短く、この期間内に財産調査を終えて判断する必要があります。

🔑 放棄後も「空き家との関係」が残る2つの経路

  • 一部放棄:相続権が次順位の相続人(子→直系尊属→兄弟姉妹)へ移る(民法939条・889条)。放棄した者が空き家を「現に占有」していれば、新たな相続人への引渡しまで保存義務が残る(民法940条)
  • 全員放棄:相続する者がいなくなり、家庭裁判所が相続財産清算人を選任して管理・清算する(民法951条・952条1項)。清算人の報酬等に充てる予納金が申立人に求められる事例がある(民事訴訟費用等に関する法律20条1項)

2. 2023年(令和5年)4月1日施行の民法改正で何が変わったか

相続土地国庫帰属制度と一体の「土地管理制度の見直し」により、相続放棄をした者の管理責任のルールが改正されました(民法940条・令和3年法律第24号による改正)。改正前は判例(最判昭和51年11月30日)により、相続放棄をしても相続財産の管理を続行する責任が善管注意義務(他人の財産に対する最重の注意)で実質的に無期限に課されると解されていました。改正後は、義務の範囲と程度が次のとおり明確化・縮小されています。

改正前(判例法理)
改正後(民法940条・2023年4月〜)
義務の対象
相続財産すべての管理続行義務
「現に占有している」財産に限定
注意義務の程度
善管注意義務(最重の注意)
自己の財産におけるのと同一の注意(具体的軽過失責任)
義務の期間
事実上無期限(管理継続が前提)
相続人または相続財産清算人への引渡しまで

改正後の条文(民法940条)

「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」(令和3年法律第24号による改正。令和5年4月1日から施行)

出典:法務省「財産管理制度の見直し(相続の放棄をした者の義務)」。この改正により、空き家に一度も立ち入っていない遠方の相続人など、事実上関与していない財産まで責任を負うことにはならなくなりました。一方で、鍵を持って家財を置いたままの状態では義務が残るため、次章の「現に占有している」の判定が実務上の分かれ目になります。

3. 管理義務の分かれ目――「現に占有している」の実務的判断基準

民法は占有について「事実上の支配」に基づくと定義します(民法180条)。相続放棄後の保存義務が問題になる場面では、空き家に対する事実上の支配の有無が、鍵・私物・立入頻度といった外形的・客観的な事情で評価されます(法務省「財産管理制度の見直し」参照)。次の3点が主な判断材料です。責任の法的側面(倒壊・損害賠償リスクを含む詳細な判定)は、相続サイトの保存義務の解説(正本)で扱っており、本記事は空き家の出口選択に必要な最小限の整理にとどめます。

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鍵の所持・管理

空き家の鍵を保有し自由に出入りできる状態は、事実上の支配を示す代表的な事実です。

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私物・家財の放置

被相続人の遺品や相続人の私物を室内に保管したままの状態も、占有の評価要素になります。

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立入の頻度

定期的な点検・換気・草刈り等の維持行為は、継続的な支配の指標として評価されます。

被相続人と同居してその後も実家に住み続けている相続人は「現に占有している」に該当しやすい一方、相続開始後に一度も立ち入っておらず鍵も所持していない相続人は該当しない可能性が高いとされています。いずれの要素にも当てはまるか迷うケースでは、次の判定フローで整理できます。

POSSESSION & PERIOD CHECK

管理義務が残るか「現に占有」セルフチェック

4つの質問に答えて、相続放棄後に空き家の保存義務(民法940条)が残る可能性を確認できます。

期間の確認

相続の開始(死亡)を知った日から【3か月以内】ですか?

相続放棄の申述期間は3か月以内です(民法915条1項)。3か月以内に判断できない場合は期間伸長の申立てができます(同条3項)。

占有の指標 1

空き家の【鍵】を所持・管理していますか?

鍵の所持は「事実上の支配」(民法180条)を示す代表的な外形的事実です。

占有の指標 2

空き家の中に【家財・私物】が置かれたままですか?

被相続人の遺品や自分の私物を保管している状態は、占有の評価要素になります。

占有の指標 3

【定期的に立ち入り】、点検・換気・草刈り等をしていますか?

継続的な立入・維持行為も客観的な支配の指標として評価されます。

なお、保存義務を終了させる方法は条文上「引き渡すまでの間」に尽きます(民法940条)。鍵の引渡しや私物の撤去を経て新たな相続人(一部放棄の場合)または相続財産清算人(全員放棄の場合)へ明け渡すことで、この義務は終了します。

4. 相続放棄・現況売却・更地売却・国庫帰属の総コスト比較

空き家を手放す手段は相続放棄だけではありません。「相続して現況のまま売却」「相続して解体・更地売却」「相続土地国庫帰属」との収支の違いを整理する材料になります。各ルートの費用の根拠は次のとおりです。

  • 相続放棄の申述費用:収入印紙800円(申述人1人につき)+連絡用郵便切手(裁判所「相続の放棄の申述」)
  • 相続財産清算人の予納金:法定の定額はなく、土地の管理・処分を要する事案では数十万円〜100万円程度の予納を求められる事例がある(民事訴訟費用等に関する法律20条1項・家庭裁判所の運用)
  • 相続土地国庫帰属:審査手数料1筆14,000円+負担金(種目別の10年分の標準的管理費用相当額。市街化区域外の宅地は20万円等の政令算定式。法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」)。建物が存する土地は申請不可のため解体費が別途必要
  • 仲介手数料:宅地建物取引業法第46条第1項に基づく国土交通省告示第十五号による法定上限額(200万円以下の部分5%、200万円超400万円以下の部分4%+10万円、400万円超の部分2%+18万円・加算定数なし、それぞれ税込)で計算
TOOL2023年(令和5年)民法改正対応

相続放棄・現況売却・更地売却・国庫帰属 4ルート収支シミュレーター

空き家の条件を入力すると、各ルートの計算過程つきで手取り・自己負担を比較できます。

400 万円
0万円2,000万円
500 万円
0万円3,000万円
150 万円
0万円400万円
20 万円
10万円100万円
50 万円
0万円(不要と判断された例)150万円
30 万円
5万円100万円
3
1年10年
SIMULATION RESULT(計算過程つき)

4つの選択肢の収支比較

この条件で手取り最大

① 相続して現況のまま売却

400万円 − 仲介手数料(法定上限・税込)19.8万円 = 380.2万円

仲介手数料は宅建業法の上限額+消費税で計算。買取業者への直接売買では仲介手数料は発生しません。

手取り/自己負担

+380.2 万円

② 相続して解体し、更地として売却

500万円 − 解体費150万円 − 仲介手数料(法定上限・税込)22万円 = 328万円

更地化すると翌年度から固定資産税の住宅用地特例の適用外となります(空家等対策特措法14条)。

手取り/自己負担

+328 万円

③ 相続土地国庫帰属(建物は解体が前提)

解体費150万円 + 手数料1.4万円 + 負担金20万円 = ▲171.4万円

手数料は1筆14,000円。負担金は種目別の「10年分の標準的管理費用相当額」(法務省)。

手取り/自己負担

171.4 万円

④ 相続放棄(相続人全員が放棄した場合)

申述実費0.08万円(印紙800円×1人) + 予納金50万円 = ▲50.1万円

全員放棄で清算人が選任されない限り予納金は発生しません。清算人選任後は管理責任は清算人に移ります(民法952条)。

手取り/自己負担

50.1 万円

⚠️
決断を先送りして 3 年放置した場合の累積維持費

年間 30 万円 × 3 年 = 累計 90 万円。空き家のまま保有し続ける限り、固定資産税・維持管理費は所有者(相続した場合)に課され続けます。

※印紙代・手数料・負担金は出典に基づく定額(裁判所「相続の放棄の申述」・法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」)。解体費・売却額・予納金・維持費は入力値による概算です。実際の予納金は裁判所の算定により変動し、専門家報酬・登記費用・譲渡所得税等は含まれていません。

5. 相続放棄の手続き・必要書類の流れ(3か月以内の申述から清算人まで)

相続放棄は、①3か月以内の財産調査と判断、②家庭裁判所への申述(民法938条1項)、③照会への回答と受理通知書の受領、が基本フローです。空き家を現に占有している場合は、④引渡しによる保存義務の終了まで行って初めて「放棄後の義務」が確定します(同条2項)。

実務フロー3か月以内の申述から清算人まで

空き家の相続放棄「5ステップ手順」と必要書類

財産調査・3か月の判断期間から申述、受理通知書の受領、占有の解消、全員放棄時の清算人選任までを整理しました。

01
相続開始の直後

相続財産の調査と3か月以内の判断(民法915条1項)

相続放棄の申述は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」が原則です。預貯金・借入・空き家の固定資産税や権利関係を調査し、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれにするかを判断します。3か月以内に判断資料が揃わない場合は、期間伸長の申立てが可能です(民法915条3項)。

📌 実務上の重要ポイント
  • 空き家の登記事項証明書(権利の内容・共有の有無)と固定資産税の納税状況を確認する
  • 被相続人の借入・未払金の有無(信用情報や郵便物で確認する事案が多い)
  • 単純承認とみなされる行為(空き家の売却・賃貸・形見分けを超える財産の処分等、民法921条)には注意
02
申立て

被相続人の最後の住所地の家庭裁判所へ申述(民法938条1項)

相続放棄は家庭裁判所への申述によってのみ行えます(民法938条1項)。申述書に収入印紙800円(申述人1人につき)と連絡用の郵便切手を添え、標準的な添付書類(被相続人の住民票除票または戸籍の附票、申述人の戸籍謄本等)を提出します(裁判所「相続の放棄の申述」)。

📌 実務上の重要ポイント
  • 申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 共同相続人の一部だけでも単独で申述できる(全員一致は不要)
  • 未成年者が単独で申述する場合等は特別代理人の選任が必要になることがある
実務チェックリスト(クリックで確認完了)
03
審理

裁判所の照会への回答と「受理通知書」の受領

多くの裁判所では、申述人に照会書(回答書)が送付され、相続の承認・放棄の意思の確認や単純承認事由(民法921条)の有無が調査されます。回答後、申述が受理されると「相続放棄申述受理通知書」が交付されます。手続の流れは裁判所によって異なる場合があります(裁判所「相続の放棄の申述」Q&A参照)。

💡 受理通知書(証明書)は登記実務・金融機関・行政手続きで相続放棄の証明に使われるため保管が必要
04
管理義務の終了

空き家を「現に占有」している場合の引渡し(民法940条)

放棄の時に空き家を現に占有している場合は、新たに相続人となった者または相続財産清算人に対して建物を引き渡すまでの間、「自己の財産におけるのと同一の注意」で保存(管理)する義務が残ります(民法940条、令和5年4月1日施行)。鍵の引渡し・私物の撤去等により占有を解消し、引渡しを完了することでこの義務は終了します。

⚠ 注意: 占有の有無は鍵の所持・私物の放置・立入頻度等の外形で評価されます。義務を終了させるには引渡し(明け渡し)まで行うことが必要です。
05
全員放棄の後

(相続人が不在となった場合)相続財産清算人選任の申立て

相続人全員が放棄して相続する者がいなくなった場合、不動産等の財産は相続財産法人(民法951条)に属し、利害関係人または検察官の請求により家庭裁判所が相続財産清算人を選任します(民法952条1項)。清算人は相続人の捜索・公告を経て財産を管理・清算し、相続人が現れない財産は最終的に国庫に帰属します。

💡 清算人の報酬等の費用を賄う財産がない場合、申立人に予納金(実務上数十万円〜100万円程度の事例)が求められることがあります(民訴費用法20条1項・家庭裁判所の運用)

📋 相続放棄の申述に必要な標準的な書類(裁判所「相続の放棄の申述」より)

  • 相続放棄の申述書(裁判所の書式・記載例を利用。成人は自署が原則)
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票(市区町村発行)
  • 申述人(放棄する相続人)の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
  • 収入印紙800円分(申述人1人につき)+連絡用の郵便切手
  • 戸籍に代えて「法定相続情報一覧図の写し」を提出できる場合がある(申述先の裁判所に確認)

6. 空き家の相続放棄に関するよくある質問(FAQ)

管理義務の残り方、「現に占有」の判定基準、3か月の申述期間、予納金、相続登記義務化との関係など、相続放棄の制度と実務について寄せられる疑問に回答します。

Q&A制度と実務の疑問

空き家の相続放棄に関する「よくある質問(FAQ)」

管理義務の残り方、「現に占有」の判定、予納金、国庫帰属との違いまで、相続放棄の実務的な疑問に回答します。

A

なくなるとは限りません。2023年(令和5年)4月1日施行の民法改正により、相続放棄をした者は「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限り、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、「自己の財産におけるのと同一の注意」で財産を保存する義務を負います(民法940条)。逆に、鍵を持たず私物も置かず立ち入ってもいないなど「現に占有している」状態に当たらない場合は、同項の保存義務は生じません。

📌 要点: 改正により義務の対象は「現に占有している財産」に限定され、注意義務も善管注意義務から自己の財産と同一の注意へ緩和されました(民法940条)。

かんたん診断

空き家のこれから、まずは方向性を考えてみませんか?

答えを急がなくても大丈夫です。いくつかの質問から、管理・活用・売却のどこを先に確認すべきか整理できます。

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家の状況から今後の方向性を整理する線画
  1. 01

    家の状況をチェック

    場所や建物の状態を、わかる範囲で確認します。

  2. 02

    ご希望や事情を選択

    使う・貸す・手放すなど、今のお考えを整理します。

  3. 03

    方向性をご提案

    次に確認したいことを、優先順でお伝えします。