相続不動産の取得費と譲渡所得:5%ルール・取得費加算・必要資料
相続不動産の売却では、相続税評価額ではなく被相続人の取得費と取得時期を引き継ぎます。取得費不明時の5%ルール、譲渡費用、取得費加算まで整理します。
結論:相続時の評価額を、そのまま売却時の取得費にはできない
相続した土地や建物を売ったときの譲渡所得は、原則として「収入金額-取得費-譲渡費用-適用できる特別控除」で計算します。ここでいう取得費は、相続税評価額や売却時の固定資産税評価額ではありません。被相続人が購入したときの代金や購入手数料などを基に計算し、取得時期も被相続人のものを引き継ぎます。
取得費の資料が見つからない場合は、売却金額の5%を概算取得費とする方法があります。しかし、実額取得費が高い可能性があるのに早く5%で確定すると、譲渡所得が大きくなり税負担が増えることがあります。売却前から古い契約書、領収書、通帳、住宅ローン資料、建築確認資料を探してください。
譲渡所得の基本式
土地・建物の課税譲渡所得金額は、売却代金などの収入金額から、取得費、譲渡費用、適用できる特別控除を差し引いて計算します。買主から受け取る未経過固定資産税等の精算金が収入金額に含まれる場合もあります。
税率は、譲渡した年の1月1日時点の所有期間により長期・短期に分かれます。相続した日からではなく、被相続人の取得時期を引き継いで所有期間を判定するため、相続してすぐ売ったから必ず短期譲渡になるという理解は誤りです。
相続した不動産の取得費は被相続人から引き継ぐ
相続や遺贈で取得した土地・建物の取得費は、被相続人が購入したときの購入代金、購入手数料、設備費、改良費などを基に計算します。相続時の時価や路線価へ取得費を置き換えるものではありません。
相続人が支払った相続登記の登録免許税や登記費用などは、業務に使われていない不動産など一定の場合に取得費へ含められることがあります。ただし、概算取得費を使う場合は、相続人が支払った登記費用等を追加できない取扱いがあります。
建物は減価償却費相当額を差し引く
建物は、購入代金や建築代金をそのまま全額取得費にするのではなく、所有期間中の減価償却費相当額を差し引きます。居住用、事業用、構造、取得時期などで計算が変わります。
土地と建物の購入代金が一括で記載されている場合は、合理的な区分が必要です。契約書、消費税額、固定資産税評価額、建築資料などを踏まえて税理士へ確認してください。
取得費資料を探す順番
まず、売買契約書、工事請負契約書、領収書、仲介手数料、登記費用、印紙税、測量費、造成費、改良費の資料を探します。被相続人の自宅、貸金庫、税理士、司法書士、不動産会社、金融機関、建築会社に記録が残っていないか確認します。
次に、通帳の支払記録、住宅ローン契約、抵当権設定額、購入当時のパンフレット、確定申告書、減価償却明細、相続以前の売買関係資料を集めます。どの資料で実額取得費を立証できるかは個別判断になるため、推測だけで金額を作らないでください。
取得費が分からないときの5%ルール
取得費が分からない場合や、実際の取得費が売却金額の5%相当額を下回る場合は、売却金額の5%を概算取得費とすることができます。例えば3,000万円で売却し取得費が不明なら、150万円を取得費とする計算です。
5%は必ず使う最低保証ではなく、実額取得費と概算取得費のどちらで申告するかを検討する仕組みです。取得費の一部だけ実額を使い、残りを5%で補うといった単純な混用はできません。資料探索と税額試算を行ってから選択します。
譲渡費用に入るもの・入らないもの
譲渡費用は、不動産を売るために直接かかった費用です。代表例は仲介手数料、売主負担の印紙税、売却のための建物取壊し費用と建物損失額、一定の立退料、借地権売却時の名義書換料などです。
一方、修繕費、固定資産税、管理費、草刈り、空き家管理費など、保有・維持のための費用は原則として譲渡費用ではありません。測量や残置物処分も、支出目的と売却との直接関係で扱いが変わるため、請求書だけでなく依頼内容と契約経緯を保存します。
相続税を取得費へ加算できる特例
相続または遺贈で財産を取得し、その人に相続税が課税され、一定期間内にその財産を譲渡した場合は、相続税額の一部を取得費へ加算できる特例があります。譲渡期限は、相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。
加算できるのは納付した相続税の全額とは限らず、譲渡した財産に対応する一定額です。相続税が課税されていない人は対象になりません。適用には確定申告書、相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書、譲渡所得の内訳書などが必要です。
空き家3,000万円控除との選択
被相続人の居住用財産に係る空き家の3,000万円特別控除を適用する家屋・敷地については、原則として相続税額の取得費加算の特例を重ねて使えません。どちらが有利かは、取得費加算額、譲渡益、空き家特例の控除上限、対象部分、相続人の人数によって変わります。
母屋以外の倉庫や対象外の土地など、空き家特例を適用できない部分について取得費加算を検討できる場合もあります。資産と譲渡価額の按分が必要になるため、契約書の対象物と価格内訳を税理士へ共有します。
売却前に作る税務ファイル
相続開始日、被相続人の取得日、購入代金、土地建物の内訳、改良費、減価償却、相続登記費用、相続税申告書、売却代金、仲介手数料、解体費、特例候補を一つの一覧にします。原本を失わないようにスキャンし、資料の出所も記録します。
売買契約書で土地・建物・付属建物・動産の価格が区分されていない場合、後から税務計算が難しくなります。売却前に税理士と不動産会社へ相談し、契約内容と税務上の区分が矛盾しないようにします。
専門家へ相談する境界
取得費資料がない、土地建物の価格区分がない、増改築や事業利用がある、共有持分を売る、空き家特例と取得費加算を比較する、相続税申告を修正する可能性がある場合は税理士へ相談してください。税率や特例は所有期間、居住状況、契約日・引渡日、相続税課税の有無で変わります。
この記事は一般的な計算構造を整理したもので、個別の取得費や税額を確定するものではありません。売買契約後では選択肢が狭くなるため、査定・契約の前に資料探索と税額試算を始めてください。