コロナ前後で「同じ駅の中で価格のばらつきが広がった」とは?
本記事の数値はすべて国土交通省「不動産取引価格情報」(公開希望価格ベース)に基づきます。売り主の出物希望価格を集計したデータであり、実際の成立価格を集計したものではありません。実際の成立価格の公開データは期間が限られ本テーマの前後比較に使えないため、本記事は取引価格情報(希望価格)で検証します。
比較するのは次の非連続2期間です。
- pre = 2018-2019
- post = 2021-2023
pre/post 両方で N≥50 を満たす駅×種別ペアのみを対象とし、価格100万円未満は除外しました。結果として分析対象は 1,749駅ペア(pre累計 N=67,000 / post累計 N=103,000)です。種別はマンション(中古マンション等)と戸建て(宅地:土地と建物)、粒度は駅×種別です。
単位は坪単価を使い、各駅×種別で次の指標を計算しました。
- 中央値 — データを順に並べた中央の値
- Q1 — 下位四分位点(安い側の代表値)
- Q3 — 上位四分位点(高い側の代表値)
- IQR = Q3 − Q1(ばらつきの幅)
- CV = IQR ÷ 中央値(中央値で正規化したばらつき指標)
CV が大きいほど「同じ駅の中で坪単価の幅が広い」ことを示します。単価水準の違う駅同士を比べるため、本記事では CV(正規化した指標)を主に使います。
検証結果 — 「二極化」はどこまで本当か
「同じ駅の中で価格のばらつきが広がった」という見方を、段階的に検証します(N=1,749駅ペア)。
1) IQR(ばらつきの絶対幅)が拡大した駅: 75.4% 約4分の3(75.4%)の駅で、安い側と高い側の差の幅が広がりました。
2) CV(正規化したばらつき)が拡大した駅: 55.6% 水準上昇の影響を除いても、過半(55.6%)の駅でばらつきは広がっています。
3) 真の二極化(Q1が下落 かつ Q3が上昇)の駅: 18.9%(330駅) 安い側がより安く、高い側がより高くなる、本来の意味での二極化パターンです。
4) 強い二極化(真の二極化 + CV比1.5倍以上)の駅: 3.7%(64駅) ばらつきの拡大が顕著なグループです。
全駅ベースの CV(中央値)は 0.733 → 0.772(CV比1.05)で、拡大は限定的です。坪単価中央値の変化率(中央値)は +12.6% で、全体としては水準が上がっています。
読み解くと、IQRの絶対値が拡大した駅の多くは「坪単価中央値そのものが上がった結果、幅も一緒に広がった」という 底上げに伴う自然な拡大 です。真に安い層と高い層が引き離されたのは18.9%、顕著なのは3.7%にとどまります。
つまり「ばらつきの拡大」は事実ですが、「全駅で二極化が進んだ」と一般化するのはデータを正しく反映しません。
真の二極化パターンを示す駅 TOP5
真の二極化(Q1下落+Q3上昇)のなかで、CV拡大率が大きい上位5駅です。すべて戸建て(宅地:土地と建物)です。
| 順位 | 駅(県・市区) | CV拡大率 | Q1変化率 | Q3変化率 | N(pre/post) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 学園都市(兵庫・神戸市垂水区) | +181.2% | -24.3% | +22.4% | N=89 / N=52 |
| 2 | 梅郷(千葉・野田市) | +149.3% | -33.5% | +48.0% | N=91 / N=116 |
| 3 | 元山(千葉・松戸市) | +144.9% | -33.1% | +22.4% | N=72 / N=80 |
| 4 | 島田(静岡) | +136.8% | -39.0% | +18.6% | N=64 / N=119 |
| 5 | 佐世保(長崎) | +96.5% | -36.3% | +43.6% | N=115 / N=166 |
学園都市(兵庫・神戸市垂水区・戸建て)を詳しく見ると、Q1は789,124円→597,364円(-24.3%)、Q3は1,042,595円→1,275,860円(+22.4%)と、安い層と高い層が明確に引き離されています(N=89/pre・N=52/post)。中央値は906,030円→862,342円(-5.2%)でほぼ据え置きであり、中央値だけ見ていると構造の変化が読めない点がこの駅の特徴です。
梅郷(千葉・野田市)は Q1が287,055円→190,931円(-33.5%)、Q3が467,533円→691,765円(+48.0%)と、Q3の上昇幅が大きいのが特徴です(N=91/pre・N=116/post)。元山(千葉・松戸市)は Q1が576,393円→385,575円(-33.1%)、Q3が860,775円→1,053,344円(+22.4%)です(N=72/pre・N=80/post)。佐世保(長崎)は Q1が98,976円→63,067円(-36.3%)、Q3が420,737円→604,132円(+43.6%)と、両端の動きが中央値より大きい典型です(N=115/pre・N=166/post)。
なお、CV拡大率上位 TOP20 のうち戸建てが過半を占め、マンションは浦安(千葉)・あいの里教育大(北海道)・北与野(埼玉)など少数にとどまります。
地域構造 — 首都圏は「底上げ型」、地方ほど「二極化型」
真の二極化駅の割合(二極化率)を地域別に見ると、はっきりとした傾向が出ます。
| 地域 | 二極化率 | 内訳 |
|---|---|---|
| 中部(愛知・静岡・三重・岐阜) | 34.7% | 42駅 / 121駅 |
| 地方(首都圏・関西・中部以外) | 24.6% | 131駅 / 532駅 |
| 関西(大阪・京都・兵庫・奈良) | 17.2% | 54駅 / 314駅 |
| 首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉) | 13.2% | 103駅 / 782駅 |
中部が34.7%(42駅/121駅)で最も高く、首都圏は13.2%(103駅/782駅)で最も低くなります。
ただし、首都圏は二極化率が低い代わりに 坪単価中央値の上昇が最も大きい(+15.4%)地域です。CV比の中央値は1.02(0.540→0.562)でほぼ不変 — つまり価格水準が一様に底上げされ、ばらつき構造は変わっていない「底上げ型」です。
一方、地方は中央値変化率が+7.6%と首都圏より小さいのに、CV比の中央値は1.09(1.093→1.158)と拡大しています。値上がり幅が小さいのにかぎってばらつきが広がる「二極化型」の構造です。同じ「値上がり」でも、首都圏と地方とで中身が違うことが分かります。
なぜばらつきが広がるのか — 考えられる構造
なぜ一部の駅でばらつきが広がったのか。データから言える範囲で、考えられる構造を並べます(いずれも可能性の話であり、単一の原因に還元できるものではありません)。
a) 戸建て中心のストック構造 TOP5は全駅戸建てです。戸建ては築年・面積・立地のばらつきがマンションより大きく、条件の良い物件とそうでない物件の価格差が開きやすい面があります。
b) 構成変化だけでは説明できない部分 学園都市(兵庫)では、築年や面積といった物件構成が pre/post で大きくは変わらないにもかかわらず、CV拡大率 +181.2% に達しています(N=89/pre・N=52/post)。この駅のばらつき拡大は、サンプルの構成変化というより、同じ駅の中で相対的に高い物件と低い物件の価格差が実質的に開いたことを示唆しています。
c) サンプル増加でないことは検証済み ばらつき拡大が「単にデータが増えたから」という説明も成立ちません。駅ペアあたりの年間件数は pre で38.5、post で40.0 とほぼ同等です(N=1,749駅ペア)。さらに、件数が増えた群の CV比(中央値)は0.97とむしろ縮小し、件数が平坦だった群は1.07と拡大しており、サンプル増加と分散拡大は逆相関すら示します。
いずれにせよ、本稿は時期の前後関係を示すものであって、特定の要因が原因だと断定するものではありません。
自分の駅・物件はどちらの組?
ここまでの数字は「1,749駅ペア全体」と「ばらつきの大きい特定駅」の2つの縮尺で見てきました。手元の物件がどちらの動きに近いかは、実際の坪単価・築年・立地を反映した個別の価格次第です。気になる駅の傾向は、関連: 都道府県別の値下げ幅比較(T-001) でも地域別の構造として扱っています。
ご自身の物件が「底上げ型」のエリアにあるのか、それとも「両端が広がる」タイプなのかを知るには、具体的な条件で価格を見積もるのが確実です。まずは 無料査定を依頼 して、手元のデータと照らし合わせてみてください。
出典: 国土交通省 不動産取引価格情報(公開希望価格ベース) / 集計期間 pre=2018-2019・post=2021-2023 / 価格100万円未満は除外 / pre/post両方で N≥50 の駅×種別ペアのみ(1,749駅ペア・pre累計約67,000件・post約103,000件)/ 種別: マンション(中古マンション等)+ 戸建て(宅地:土地と建物)/ 単位: 坪単価の中央値・Q1・Q3・IQR・CV