家を売るとき、「最初の希望価格からどれだけ値下げて成約するのか」は地域によって決定的に違います。21年分の成約データが示す戸建ての構造は、首都圏(1都3県)では値下げ幅が−12.8%で売り手が優勢、地方では−39.2%で買い手が優勢という二極構造です。本記事では、この26.4ptの差が「首都圏」の定義を変えても崩れない理由と、首都圏内部・地方それぞれの内訳をデータで確認します。扱うのはすべて戸建て(マンションは地域差がないという意外な結果として最後に触れます)。
T-001のおさらい: 値下げ幅は都道府県で大きく違う
シリーズ第1弾「成約価格と取引価格はどこまで違う?」では、戸建ての値下げ幅(乖離率)が都道府県単位で大きくばらつくことを示しました。鹿児島県で−69.4%に達する一方で愛知県や奈良県ではほぼゼロになる構造は、地方と都市部で価格形成の土俵が違うことを示唆します。
本記事はその続編として、都道府県を「首都圏 vs 地方」という2つのくくりで再集計し、値下げ幅の二極構造が定義に依存しない頑健なものかを検証します。記事で扱うデータはすべて坪単価の中央値です。坪単価には最大で約10億円(1坪あたり)に達するデータ異常や、和歌山の+50%のような期間偏りが混じるため、加算集計による代表値は使えず、全指標を中央値で集計しています。集計期間は2005年第1四半期〜2025年第4四半期(21年・82期)、価格100万円未満の取引は除外、各都道府県×種別で N≥30 を満たす組合せのみを対象としました。結果として戸建ての分析対象は46セルになります。
なお、本記事の「首都圏」は特に断りのない限り**1都3県(東京/神奈川/埼玉/千葉)**を指します。後述のように1都7県・三大都市圏など別の定義でも検証しますが、関東4県はそこに含まれる最小の首都圏定義です。
戸建ての二極構造: 首都圏−12.8% vs 地方−39.2%の差は26.4pt
戸建て46セルを首都圏(1都3県)と地方に2分すると、値下げ幅(乖離率の中央値)は明瞭に分かれます。
| 地域 | 乖離率中央値 | セル数 | N(成約/取引) |
|---|---|---|---|
| 首都圏(1都3県) | −12.8% | 4セル | N=90,660 / 取引639,852 |
| 地方 | −39.2% | 42セル | N=157,411 / 取引1,431,550 |
乖離率は (取引中央値 − 成約中央値) / 成約中央値 で定義し、負の値が大きいほど出物希望価格から大きく値下げして成約している(買い手優勢)ことを示します。首都圏(1都3県)は−12.8%(N=90,660 / 取引639,852)で値下げ幅が限定的な一方、地方は−39.2%(N=157,411 / 取引1,431,550)と4割近い値下げ構造になります。両者の差は 26.4pt です。
言い換えると、戸建ては「首都圏では出物と成約が近い」「地方では出物から大きく値下げて成約に至る」という2つの価格形成が並存しています。これは過去データの構造描写であり、個別物件の成約価格を断定するものではありません。
なぜ頑健か: 3つの「首都圏」定義で同じ結果が出る
「首都圏と地方で差がある」という結果が、首都圏の定義を変えたときに崩れないかを検証しました。定義A(1都3県)に加え、より広い関東圏(定義B: 1都7県)と三大都市圏(定義C)でも集計しています。
| 定義 | 首都圏/都市側 | 地方側 | 差 |
|---|---|---|---|
| A: 1都3県 | −12.8%(4セル) | −39.2%(42セル) | 26.4pt |
| B: 1都7県 | −20.3%(8セル) | −40.8%(38セル) | 20.5pt |
| C: 三大都市圏 | −13.5%(13セル) | −43.3%(33セル) | 29.8pt |
3つの定義すべてで、首都圏(都市側)のほうが値下げ幅が小さく、地方のほうが大きいという関係が維持されます。差は三定義とも20ポイント台から30ポイントの範囲で安定しており、定義Aに限った偶発的な結果ではありません。定義Bでは首都圏側に地方寄りの県が加わるため値下げ幅がやや拡大(−20.3%)しますが、地方側も−40.8%で差は20.5ptと維持されます。定義C(三大都市圏)では、都市側をより狭く厳しく選ぶため乖離率は−13.5%に戻り、地方側が−43.3%まで広がって差は29.8ptになります。
要するに、首都圏をどう定義しても「首都圏の戸建ては値下げ幅が小さく、地方は大きい」という構造は崩れません。これが本記事の主張の頑健性の根拠です。
首都圏の中にも格差: 東京−1.8%から千葉−19.1%への逓減
首都圏(1都3県)全体では−12.8%でしたが、4県の内訳を見ると中心から郊外へ向かって値下げ幅が拡大する構造が見えます。
| 都道府県 | 乖離率 | N(成約/取引) |
|---|---|---|
| 東京都 | −1.8% | N=29,093 / 取引208,045 |
| 神奈川県 | −9.5% | N=26,758 / 取引170,739 |
| 埼玉県 | −16.1% | N=18,666 / 取引141,416 |
| 千葉県 | −19.1% | N=16,143 / 取引119,652 |
東京都戸建ては −1.8%(N=29,093 / 取引208,045)で、出物希望価格と成約価格の中央値がほぼ一致します。買い手が予算を上回って払うケースと値下げして成約するケースがほぼ均衡する、売り手優勢に近い市場です。神奈川県(−9.5%、N=26,758 / 取引170,739)は値下げ幅が1桁で抑えられ、埼玉県(−16.1%、N=18,666 / 取引141,416)、千葉県(−19.1%、N=16,143 / 取引119,652)と外縁に向かって値下げ幅が拡大します。
東京−1.8%から千葉−19.1%への開きは、首都圏内部でも中心-郊外の価格形成の違いがあることを示します。ただし、この4県いずれも地方42セルの中央値(−39.2%)よりは値下げ幅が小さく、「首都圏全体が売り手に近い」というくくりは維持されます。
地方の現実: 鹿児島−69.4%・レンジは−69.4%〜+0.5%
地方42セルの値下げ幅は−39.2%が中央値ですが、県ごとに見ると分布はさらに広がります。値下げ幅が大きい側の代表3県です。
| 都道府県 | 乖離率 | N(成約/取引) |
|---|---|---|
| 鹿児島県 | −69.4% | N=902 / 取引22,508 |
| 大分県 | −61.3% | N=1,173 / 取引15,000 |
| 長野県 | −60.9% | N=491 / 取引33,365 |
鹿児島県戸建ては −69.4%(N=902 / 取引22,508)で、戸建て46セルのなかで値下げ幅が最大です。出物希望価格の中央値が成約中央値より7割近く高い、つまり出物から大幅に値下げしないと成約に至らない構造です。大分県(−61.3%、N=1,173 / 取引15,000)、長野県(−60.9%、N=491 / 取引33,365)と続きます。いずれも6割を超える値下げ幅です。
一方で、地方にも値下げ幅が小さい県はあります。地方42セルの乖離率レンジは −69.4% 〜 +0.5% で、最大値(+0.5%)は奈良県です。同じ「地方」でも、鹿児島のように出物が大きく値下げされる構造と、奈良のように成約が取引を上回る売り手優勢の構造が同居しています。これが地方42セルの中央値を−39.2%に引っ張る分散の源です。
地方全体を「売れない」と一括りにするのは正確ではありません。ただ、値下げ幅の大きい県が地方側に偏在しているのは事実で、これが首都圏との26.4pt差の実態です。
(コラム)意外な事実: マンションは地域差がない
戸建てで鮮明だった二極構造は、マンションになると消えます。同じ集計条件でマンションを首都圏(1都3県)と地方に分けると、次のようになります。
| 種別/地域 | 乖離率中央値 | セル数 |
|---|---|---|
| マンション 首都圏(1都3県) | −17.6% | 4セル |
| マンション 地方 | −15.2% | 43セル |
| マンション 全国 | −15.4% | 47セル |
マンション首都圏(1都3県)は −17.6%(4セル)、地方は −15.2%(43セル)で、差は 2.4pt しかありません。戸建ての26.4ptと比べると誤差範囲でしかなく、首都圏と地方で値下げ幅に有意な差があるとは言えません。マンション全国47セルの中央値も −15.4% で、地域別の数値とほぼ同じ水準に収まります。
念のため定義感受性も確認しました。マンションは定義A(1都3県)・B(1都7県)では首都圏側が−17〜−19%とやや値下げ幅が大きいものの、定義C(三大都市圏)では都市側が−14%となり、首都圏と地方の大小関係が逆転します。つまりマンションの「地域差」は定義を変えると符号が変わるほど脆く、戸建てのような頑健な二極構造は存在しません。
したがって「マンションは地方のほうが値下げ幅が大きい」という一般論は、本データでは支持されません。マンションは戸建てと異なり、地域によらず同程度の値下げ構造を持つ、というのがデータの示す結論です。
あなたの地域はどっち?
ここまでの数字は、すべて過去21年(2005〜2025年)の構造を示すものです。将来の価格を保証するものではありません。ただ、データから読み取れる要点は次の3つです。
- 戸建ては地域差が大きい: 首都圏(1都3県)−12.8%に対し地方−39.2%。差26.4ptは3つの首都圏定義すべてで20ポイント台から30ポイントの範囲に再現され、頑健。
- 首都圏内部にも中心-郊外の勾配がある: 東京−1.8%から千葉−19.1%へ値下げ幅が拡大。ただし首都圏4県いずれも地方中央値よりは小幅。
- マンションは地域差がない: 首都圏と地方の差は2.4pt(誤差範囲)。定義Cでは符号が逆転し、戸建てのような二極構造は存在しない。
自分の家がどの構造に近いかを知るには、物件の所在地・種別・築年を踏まえた個別の価格見立てが必要です。成約データに基づく客観的な目安を得るなら、無料査定を依頼 からご相談ください。都道府県別の詳細ランキングは シリーズ第1弾 を参照してください。
集計条件: 出典=国土交通省「不動産取引価格情報・成約価格情報」/期間=2005年第1四半期〜2025年第4四半期(21年・82期)/単位=坪単価の中央値/価格100万円未満は除外/各都道府県×種別で N≥30 の組合せのみ(戸建て46セル・マンション47セル)/乖離率(%)=(取引中央値−成約中央値)/成約中央値。正=値下げして成約、負=成約≥取引/首都圏は特に断りなき場合1都3県(東京/神奈川/埼玉/千葉)。定義B=1都7県、定義C=三大都市圏。
出典: 国土交通省 不動産取引価格情報・成約価格情報