リノベ需要の「数字」が見えない — 本稿の問い
「リノベ済みの中古マンションは、そうでない物件と比べてどれくらい価格が違うのか」。この問いに、公的なデータで答えた資料は多くありません。リフォーム業者の案内には金額が並びますが、対照となる「未改装」と同条件で比較した数値は示されにくい構造です。
本稿は国土交通省の公開データ(成約価格情報・取引価格情報)のみを使い、坪単価の中央値で改装物件と対照物件を比較します。改装による価格差を「改装プレミアム(%)」と呼び、次の式で定義します。
改装プレミアム(%) = (改装中央値 − 対照中央値) / 対照中央値
- 正の値 = 改装物件の坪単価中央値が対照より高い
- 負の値 = 改装物件の坪単価中央値が対照より安い
集計の前提を先に示します。単位はすべて坪単価の中央値、価格100万円未満の取引は除外、各粒度で N≥30 の組合せのみを採用しました。期間と対照の定義は2種類のデータで異なり、記事の肝でもあるため、次節以降で都度明示します。なお、本稿はマンション(中古マンション等)限定の分析で、戸建ては対象外です。
成約データの正直な制約: 改装明記は 3.0% のみ
最初に制約を開示します。成約価格情報(中古マンション等・2021〜2025年)で「改装済み」と明記されている物件は、全体の 3.0%(18,600件 / N=18,600)のみです。一方で「未改装」という明示的な値は 0件(存在せず)。残り 97.0%(601,696件)は renovation 列が NULL(記載なし)です。
| renovation 列 | 割合 | 件数 |
|---|---|---|
| 改装済み(明記) | 3.0% | 18,600件 |
| 未改装(明示) | — | 0件 |
| NULL(記載なし) | 97.0% | 601,696件 |
つまり成約データでは、「改装していない物件」がきれいに分離されていません。NULL の中には未改装物件も改装物件も混在している可能性があります。このため本稿の成約データ分析では、対照を「NULL(記載なし)」全体とし、「未改装」とは呼びません。
補足: renovation 列が存在する(記載ありの種別)のは中古マンション等のみです。戸建てでは renovation 列が全件記載なし(明記件数 0件)であるため、本稿では戸建てを対象外としました。
築年でプレミアムが反転する — 新築域 −9.6% vs 築31年超 +33.3%
成約データ(対照=NULL)で築年帯別に改装プレミアムを出すと、築年によって符号が反転します。
| 築年帯 | 改装プレミアム | N(改装/対照) |
|---|---|---|
| 築0〜10年 | −9.6% | N=439 / 対照 N=70807 |
| 築11〜20年 | −3.2% | N=2898 / 対照 N=80412 |
| 築21〜30年 | +11.1% | N=5855 / 対照 N=76572 |
| 築31年超 | +33.3% | N=9400 / 対照 N=117354 |
新築域(築0〜10年)では、改装物件の坪単価中央値は対照(NULL)を下回り、改装プレミアムは −9.6%(N=439 / 対照 N=70807)。築11〜20年でも −3.2%(N=2898 / 対照 N=80412)と改装が安い側に振れます。
しかし築21〜30年で +11.1% に転じ、築31年超では +33.3% に達します。築31年超では改装が対照より坪単価中央値で3割ほど高く(N=9400 / 対照 N=117354)、築古になるほど改装プレミアムが大きくなる傾向がデータから見えます。
これは過去データの構造描写であり、個別物件の将来価格を保証するものではありません。
なぜ反転するのか — 新築と築古で改装の意味が違う
符号が反転する理由を、データの性質から推論します。
- 新築域の改装は「何か理由があって改装」: 築浅で改装するのは、経年劣化以外の理由(間取り変更、設備の初期アプグレード、事故物件の修復等)が背景にあるケースが多いと考えられます。市場はその「理由」を価格に反映している可能性があります。
- 築古の改装は「新築同等の価値を回復」: 築30年を超えると、未改装物件は陳腐化が進み坪単価が下がります。改装は設備・内装を更新し、居住性能を引き上げるため、対照(未改装中心のNULL群)との差が開く構造です。
理由の裏付けはデータ単独では確定できません。ただ「築年帯によって改装プレミアムの符号が変わる」という事実は、改装の評価を一括りにはできないことを示しています。
取引データで補強 — 明示的未改装対照だと築31年超 +57.6%
成約データの対照は「NULL(記載なし)」であり、未改装がきれいに分離されていません。そこで、対照が**明示的に「未改装」**と分類されている取引価格情報(2005〜2025年)で同じ集計を行いました。
| 築年帯 | 改装プレミアム(取引・明示的未改装対照) | N(改装/未改装) |
|---|---|---|
| 築0〜10年 | −11.7% | N=28603 / 未改装 N=181739 |
| 築11〜20年 | −8.3% | N=63030 / 未改装 N=175150 |
| 築21〜30年 | +30.1% | N=70174 / 未改装 N=121241 |
| 築31年超 | +57.6% | N=71836 / 未改装 N=101308 |
傾向は成約データと同じで、築21〜30年から改装が割高になります。注目は築31年超の +57.6%(N=71836 / 未改装 N=101308)。成約データの +33.3%(N=9400 / 対照 N=117354)を大きく上回ります。
この差は、成約データの対照(NULL)の中に改装物件が混入していたことと整合します。対照を「明示的未改装」に絞ると、改装と未改装の差がよりくっきり出る、という読み方ができます。
頑健性 — 全県で正、プレミアム中央値 +50%
築31年超(取引・明示的未改装対照)で、改装と未改装が両方 N≥30 を充足する都道府県を並べると、全県で正(改装が高い) でした。プレミアム中央値は +50%。方向は地域を問わず頑健です。
| 項目 | 都道府県 | 改装プレミアム | N(改装/未改装) |
|---|---|---|---|
| 上位 | 高知県 | +88.9% | N=31 / 未改装 N=50 |
| 上位 | 富山県 | +85.4% | N=66 / 未改装 N=83 |
| 上位 | 千葉県 | +82.7% | N=5407 / 未改装 N=7455 |
| 下限 | 宮崎県 | +10.1% | N=42 / 未改装 N=77 |
| 参考 | 東京都 | +28.1% | N=20783 / 未改装 N=25712 |
最大は高知 +88.9%(N=31 / 未改装 N=50)、以下 富山 +85.4%(N=66 / 未改装 N=83)、千葉 +82.7%(N=5407 / 未改装 N=7455)。最小は宮崎 +10.1%(N=42 / 未改装 N=77)で、これも正。東京は +28.1%(N=20783 / 未改装 N=25712)と、首都圏は地方ほどの爆発感はないものの、やはり改装が割高です。
参考までに、成約データ側(対照=NULL)で改装物件が N≥30 に達するのは 29都道府県で、件数は東京 5,448 / 大阪 2,490 / 神奈川 1,830 / 愛知 1,263 / 兵庫 1,241(上位5都道府県)。都市部に改装物件が集中している構造が見えます。
反証 — 面積・立地・築年で偏りはない
「改装物件がたまたま条件の良い物件だったから高かっただけでは?」という反証を、築31年超(対照)で外枠比較しました。
| 比較項目 | 改装 | 対照 |
|---|---|---|
| 面積中央値 | 65㎡ | 65㎡ |
| 駅距離中央値 | 8分 | 8分 |
| 建築年中央値 | 1982年 | 1982年 |
面積・駅距離・建築年の中央値がいずれも一致。改装群と対照群は、外枠の条件で偏っていません。さらに旧耐震(1981年以前)物件の比率を見ても、改装群 3,962件 / 対照群 48,422件 と両群とも旧耐震を含みます。したがってプレミアムは耐震基準の違いではなく、改装そのものの効果と解釈できます。
あなたの物件はどの築年帯? — 改装と売却の判断
本稿の数字はすべて過去データの構造であり、個別物件の成約価格を約束するものではありません。ただ、データから読める点は次の2つです。
- 築21〜30年を境に改装プレミアムの符号が変わる。築浅の改装は対照より安く、築古の改装は対照より高い傾向。
- 築31年超では地域を問わず改装が割高で、プレミアム中央値は +50%。ただし規模は地域によって +10.1% から +88.9% まで幅がある。
改装を行うか、そのまま売るかは、施工規模や資金計画も含めた個別の判断になります。本稿では施工費用のデータを持たないため、費用対効果の断定は行いません。ご自身の物件の築年と立地を踏まえた価格見立てを知りたい場合は、無料査定を依頼 からご相談ください。物件ごとの条件で成約データに基づく目安をお出しできます。
また、売却前に出物価格と成約価格の「ずれ」を確認したい場合は、関連: 値下げマップ(T-001) もご参照ください。地域別の値下げ構造がわかります。
集計条件: 出典=国土交通省「不動産取引価格情報・成約価格情報」/期間=成約 2021〜2025年(5年)/取引 2005〜2025年(21年)/単位=坪単価の中央値/価格100万円未満は除外/マンション(中古マンション等)限定/各粒度で N≥30 の組合せのみ/対照=成約はNULL(記載なし)・取引は未改装(明示)/改装プレミアム(%)=(改装中央値−対照中央値)/対照中央値。正=改装が高い、負=改装が安い。
出典: 国土交通省 不動産取引価格情報・成約価格情報