固定資産税評価額と実勢価格はなぜ違うのか
固定資産税の通知書に書かれた「評価額」を見て、これが売却価格の目安になるのか疑問に思った人は少なくありません。結論から言えば、固定資産税評価額と実勢価格(実際の取引で成立する価格)は根本的に別の指標です。全国694市のデータを集計すると、税評価額の算定基盤である公示地価は、実際の成約価格より中央値で86.8%低い水準にあります。税評価額はこの公示地価を基に算定されるため、実勢価格とは大きな隔たりがあります。
本記事は国土交通省「不動産取引価格情報」の成約価格情報(N=620,296件・2021〜2025年)と「地価公示・基準地価」(N=25,994地点・2024年)を用い、公示地価と実勢価格の乖離を全国規模で測定します。
固定資産税評価額の算定ベースとは
固定資産税評価額は市町村が3年に1度の評価替えで算定します。土地の評価額は公示地価(国土交通省が毎年1月に公表する標準地の価格)や基準地価を出発点とし、地域の実情に合わせて調整して設定されます。公示地価が実勢価格と離れていれば、税評価額も実勢価格から離れることになります。
本記事の集計は以下の2つのデータを突き合わせたものです。成約価格情報は2021年第1四半期〜2025年第4四半期・全国1,188市・620,296件。公示地価は2024年・全国1,525市・25,994地点です。両者が交差する694市で、市区町村別・物件種別に中央値を算出し、1,202セルの乖離率を測定しました。価格はすべて中央値で集計しています。
公示地価と実勢価格の乖離 — 全国データが示す事実
集計結果は明確です。1,202セルのうち、成約価格が公示地価を上回るケースは1,154セル(96.0%)に達します。公示地価の方が高いケースはわずか48セル(4.0%)。乖離率の中央値は**+86.82%**——成約価格は公示地価の中央値で約1.9倍です。四分位範囲は+52.91%〜+144.15%で、下位四分位点ですでに+50%を超えています。乖離率は-61.18%から+1324.94%まで広がり、地域によって極端な差があります。
乖離率を帯域別に見ると、偏りがさらに鮮明になります。
| 乖離率 | セル数 | 割合 |
|---|---|---|
| +100%以上 | 496 | 41.3% |
| +50〜+100% | 429 | 35.7% |
| +20〜+50% | 184 | 15.3% |
| 0〜+20% | 45 | 3.7% |
| マイナス | 48 | 4.0% |
1,202セルのうち925セル(76.9%)が乖離率+50%以上です。つまり4市に3市で、成約価格は公示地価の1.5倍以上で取引されています。公示地価が実勢価格の「おおまかな目安」にすらなっていない地域が大半です。税評価額はこの公示地価を基に算定されるため、公示地価と実勢価格の乖離がそのまま税評価の限界となります。
物件種別で乖離が変わる
物件種別によって乖離の度合いが変わります。宅地(土地と建物)の成約データでは乖離率中央値が+76.66%(665セル)、中古マンション等では+106.16%(537セル)です。
マンションの乖離が大きいのは、成約m²単価が専有面積(床面積)ベースで算出されるのに対し、公示地価は土地面積ベースだからです。両者は単位が異なるため、マンションの乖離率は参考値として扱います。
ここで重要な注意点があります。宅地(土地と建物)の成約m²単価は、土地と建物を合わせた取引価格を土地面積で割った値であり、建物価値が含まれます。一方、公示地価は純粋な地価です。そのため本記事の乖離率は建物価値分だけ過大に見える傾向があります。この点を考慮しても、宅地の乖離率中央値+76.66%は、公的な地価指標と実際の取引価格の間に大きな溝があることを示しています。
地域別の乖離 — 主要都市の実例
具体的な都市で乖離を見ると、地域による違いが浮かび上がります。
| 市区 | 成約m²単価 | 公示地価 | 乖離率 | N(成約/公示) |
|---|---|---|---|---|
| 福岡市東区 | 19.5万円/m² | 11.5万円/m² | +69.1% | 690/57 |
| 横浜市港北区 | 55.6万円/m² | 32.9万円/m² | +69.1% | 918/62 |
| 神戸市東灘区 | 50.0万円/m² | 31.1万円/m² | +61.0% | 550/44 |
| 大田区 | 88.0万円/m² | 58.0万円/m² | +51.7% | 1,262/98 |
| 世田谷区 | 96.1万円/m² | 72.9万円/m² | +31.9% | 1,986/143 |
| 横浜市青葉区 | 38.5万円/m² | 30.4万円/m² | +26.6% | 1,210/55 |
| 杉並区 | 80.0万円/m² | 64.3万円/m² | +24.5% | 1,340/86 |
| 練馬区 | 55.6万円/m² | 45.0万円/m² | +23.5% | 1,848/110 |
(いずれも宅地・土地と建物の成約データと2024年公示地価の比較)
横浜市港北区では成約55.6万円/m²に対して公示地価が32.9万円/m²で、乖離率+69.1%。これに対し世田谷区は乖離率+31.9%と比較的近い水準です。公示地価は年1回の公表に対して市場は常に動いており、更新のタイムラグと地域ごとの価格変動スピードの差が、この乖離のばらつきを生んでいると考えられます。練馬区(+23.5%)や横浜市青葉区(+26.6%)は乖離が比較的小さいものの、それでも成約価格は公示地価を2割以上上回っています。いずれの都市でも、税評価額の算定基盤である公示地価は実勢価格に追いついていません。
まとめ:固定資産税評価額を売却目安に使えない理由
データが示す結論は明快です。固定資産税評価額の算定基盤である公示地価は、全国694市のうち76.9%の地域で実勢価格(成約価格)より50%以上低く、乖離率の中央値は86.8%です。税評価額は公示地価を基に算定されるため、実勢価格とは大きな隔たりがあることがわかります。物件種別で見ても、建物価値が含まれることを考慮しても宅地の乖離率中央値は+76.66%に達します。
固定資産税の通知書の評価額は、あくまで税負担を算定するための指標です。固定資産税評価額に公示地価と同じ水準の乖離があるとすれば、売却を検討する際の価格目安として使うことはできません。物件の売却価格を知りたい場合は、成約データに基づく相場や専門家による査定を参照することが適切です。成約データに基づく個別の相場目安を得たい場合は、無料査定を依頼 からご相談ください。
集計条件: 出典=国土交通省「不動産取引価格情報」成約価格情報(REINS週次公表)および「地価公示・基準地価」(2024年)/成約期間=2021年第1四半期〜2025年第4四半期/集計単位=m²単価(円/m²)の中央値/成約N≥30・公示地価N≥5のセルのみ/乖離率=(成約m²単価−公示地価m²単価)÷公示地価m²単価×100/宅地(土地と建物)の成約m²単価は建物価値を含むため、公示地価(純粋な地価)との比較では建物価値分だけ乖離が過大に見える点に注意/中古マンション等の成約m²単価は専有面積ベース(土地面積ベースの公示地価とは単位が異なる)
出典: 国土交通省 不動産取引価格情報(成約価格情報)・地価公示・基準地価