路線価と実勢価格 — まず結論
土地を相続したとき、税金の計算に使われるのは**路線価(相続税評価額)です。一方で、その土地を実際に売ろうとすれば市場で成立する実勢価格(成約価格)が基準になります。この二つは同じ土地でも金額が大きく異なり、結論から言えば路線価は公示地価の中央値で77.6%に設定されるのに対し、実勢価格は公示地価の中央値で1.78倍(+78.0%)**で動いています。
公示地価を共通の物差しにすると、両者の位置関係が見えてきます。路線価/公示地価が0.776、実勢価格/公示地価が1.780ですから、路線価は実勢価格の**概ね4割強(約43.6%)**に相当します。つまり税務上の評価額は、実際に売れる金額の半分以下の水準で設定されているのが構造的な実態です。なおこの43.6%は路線価地点と成約物件を直接マッチングした実測値ではなく、公示地価を基準とした推計値です(直接マッチングではない旨、後述します)。
本記事の数値は、路線価と公示地価が国土交通省「不動産情報ライブラリ API(XCT001)」の2024年単年データ(15,975件・38都道府県806市)、実勢価格が同省「不動産取引価格情報」の成約価格情報(宅地=土地と建物・2021年第1四半期〜2025年第4四半期・248,094件)に基づきます。価格はすべて中央値(median)で集計し、平均値は使いません。
路線価(相続税評価額)とは何か — データで見る水準
路線価は、国税庁が相続税・贈与税の算定基準として毎年設定する、道路に面する宅地1㎡あたりの評価単価です。路線価に土地の面積を掛ければ評価額の概算が出ます(実際には奥行価格補正率や側方路線影響加算率などの補正が加わります)。
本記事で使う路線価データでは、15,975件の路線価中央値は110,000円/㎡、対応する**公示地価中央値は144,000円/㎡**です。用途別の内訳は住宅地11,117件・商業地3,934件・工業地856件・その他68件で、38都道府県・806市区町村をカバーします(2024年単年)。
ただし一つ前置きが必要です。この15,975件はXCT001カバレッジ(都市部中心・全体の約39%)の部分サンプルです。路線価データにマッチした地点の公示地価中央値144,000円/㎡は、全41,416地点の公示地価中央値61,700円/㎡より高めに出ています。以降でも公示地価の絶対額を引用するときは「路線価データにマッチした地点」と限定し、部分サンプルである旨を併記します。
路線価は公示地価の77.6% — なぜ比率は安定するのか
路線価は公示地価を参照して設定されるため、両者の比率は全国どこでもほぼ同じ値に収まります。15,975件で測ると路線価/公示地価の中央値は0.776(77.6%)、第1四分位が0.756、第3四分位が0.793で、四分位範囲(IQR)はわずか0.037です。
分布で見ると安定性はさらに明確です。15,975件のうち64.9%が0.75〜0.80の帯に集中し、0.70〜0.85の帯だけで**96.4%**を占めます。0.70未満は3.0%、0.85以上は0.6%しかありません。比率の最小値は0.297、最大値は2.647ですが、こうした極端値はごく一部です。
この安定性は、路線価が公示地価を一定の掛け目(おおむね7〜8割)で機械的に換算していることの反映です。したがって「路線価は公示地価の約8割」という関係は、地域や用途を問わずほぼ成り立ちます。都道府県別でも比率は0.743(福岡県)から0.806(和歌山県)の狭い範囲に収まり、都市部(福岡・愛知・東京)ほどやや低め、地方(和歌山・愛媛・徳島)ほどやや高めに振れる傾向が見えます。
用途別の路線価 — 商業地は住宅地の2.24倍
用途別に見ると、路線価/公示地価の比率は住宅地0.778・商業地0.765・工業地0.778・その他0.805で、いずれも0.76〜0.81の狭い範囲に収まります。比率は用途で大きく変わりませんが、絶対水準は大きく異なります。
| 用途 | 路線価中央値 | 公示地価中央値 | 比率 | N |
|---|---|---|---|---|
| 住宅地 | 98,000円/㎡ | 127,000円/㎡ | 0.778 | 11,117 |
| 商業地 | 220,000円/㎡ | 291,500円/㎡ | 0.765 | 3,934 |
| 工業地 | 87,500円/㎡ | 114,000円/㎡ | 0.778 | 856 |
| その他 | 27,500円/㎡ | 34,200円/㎡ | 0.805 | 68 |
商業地の路線価220,000円/㎡は、住宅地98,000円/㎡の2.24倍です。商業地は繁華街や駅前など取引活性度が高い地点に設定されるため、絶対額では住宅地を大きく上回ります。一方で比率は商業地が0.765と最も低く、商業地ほど路線価が公示地価に対して控えめに設定される傾向があります。
実勢価格(成約価格)は公示地価の1.78倍
ここからが本題です。路線価は公示地価の約8割ですが、実勢価格(成約価格)は公示地価とどう違うのでしょうか。
公示住宅地(路線価データ・住宅地)と宅地(土地と建物)の成約価格を市単位でマッチング(成約N≥30・公示N≥5)すると、**成約/公示の中央値は1.780(+78.0%)**になります。第1四分位が1.541、第3四分位が2.067。乖離幅は最小0.735(公示地価より26.5%安い)から最大5.928(4.9倍高い)まで広がり、628市で測定しました。
参考までに、成約側の絶対水準は宅地(土地と建物)248,094件で単価中央値194,444円/㎡、坪単価中央値642,790円/坪です。実勢価格は、土地だけでなく建物を含む戸建ての取引額である点に注意が必要です。
つまり公示地価という同じ物差しに対し、路線価は0.776倍、実勢価格は1.780倍で位置します。両者が公示地価を挟んで逆方向に離れるため、路線価と実勢価格の間には大きな開きが生じます。
路線価と実勢価格の関係 — 公示地価を挟む二つの比率
二つの比率を掛け合わせると、路線価と実勢価格の関係が数値で見えます。公示地価を共通基準として0.776 ÷ 1.780 = 0.436。路線価は実勢価格の**概ね4割強(約43.6%)**という位置づけです。
ただし繰り返しになりますが、この43.6%は路線価地点と成約物件を直接マッチングした実測値ではありません。路線価/公示地価(0.776・15,975件)と成約/公示地価(1.780・628市)という、別々に測った二つの比率から公示地価を基準に導いた推計値です。路線価データは都市部中心の部分サンプル(約39%)であり、成約データには建物価値が含まれるため、絶対的な精度には限界があります。それでも「路線価は実勢価格の半分以下の水準」という構造は、二つの独立した集計から一貫して示されています。
相続の場面では、この開きがそのまま「税務上の評価額」と「実際に売れる金額」の差として現れます。路線価で低く評価されることは相続税の負担を軽くする側面がありますが、一方で土地を売却して納税資金を調達する際には、実勢価格との差を意識する必要があります。
都道府県別の路線価 — 東京が圧倒、地方との差は9.8倍
路線価の絶対水準は地域差が大きいです。住宅地路線価が最も高いのは東京都で295,000円/㎡(公示地価382,000円/㎡・比率0.769・1,513地点)。2位神奈川県150,000円/㎡、3位大阪府115,000円/㎡、4位京都府110,000円/㎡、5位埼玉県105,000円/㎡が続きます。最も低い富山県の30,000円/㎡と比べると9.83倍の開きがあります。
| 順位 | 都道府県 | 住宅地路線価中央値 | 公示地価 | 比率 | N |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 東京都 | 295,000円/㎡ | 382,000 | 0.769 | 1,513 |
| 2 | 神奈川県 | 150,000円/㎡ | 193,000 | 0.776 | 1,387 |
| 3 | 大阪府 | 115,000円/㎡ | 149,000 | 0.776 | 1,113 |
| 4 | 京都府 | 110,000円/㎡ | 142,000 | 0.792 | 395 |
| 5 | 埼玉県 | 105,000円/㎡ | 134,000 | 0.783 | 830 |
商業地では東京都の路線価が880,000円/㎡(公示地価1,190,000円/㎡・比率0.746・822地点)で群を抜き、2位京都府390,000円/㎡を大きく引き離します。東京都の商業地路線価は、同県の住宅地路線価295,000円/㎡の2.98倍です。
なお絶対額は地域で大きく違っても、路線価/公示地価の比率は前述の通りどの都道府県でも0.74〜0.81に収まります。「路線価の水準」は地域で変わりますが、「路線価と公示地価の関係」は全国で安定している、という点が実務上の読み方の要点です。
路線価を読むときの注意点 — サブセット・バイアスと限界
本記事の路線価データを使う際、三つの限界を念頭に置いてください。
第一に、部分サンプルです。15,975件はXCT001カバレッジ(都市部中心・全体の約39%)に限られ、38都道府県・806市をカバーしますが、残りの9県や過疎地は含まれません。路線価データにマッチした地点の公示地価中央値144,000円/㎡は、全地点の61,700円/㎡より高めであり、都市部に偏った分布です。
第二に、路線価/実勢比率は推計値です。43.6%という数値は公示地価を基準にした間接推計であり、路線価地点と成約物件の直接マッチングではありません。また成約データは建物を含む戸建て取引であるため、純粋な土地の実勢価格とは単位が異なります。大まかな位置関係の目安として捉えてください。
第三に、路線価はあくまで評価の出発点です。実際の相続税評価額は、路線価に奥行価格補正率・側方路線影響加算率・借地権割合など各種補正を掛けて算出されます。本記事の数値は路線価と公示地価・実勢価格の全体像を示すものであり、個別物件の正確な評価額ではありません。
まとめ — 相続で路線価をどう使い、実勢価格をどう確かめるか
路線価と実勢価格の関係を一つの図式でまとめると、こうなります。公示地価を基準にして、路線価は0.776倍(約8割)、実勢価格は1.780倍(約1.8倍)。結果として路線価は実勢価格の概ね4割強に位置し、税務評価額と実際の売却額の間には構造的な開きがあります。この開きは地域や用途で大きくは変わらず、路線価/公示地価の比率は全国で0.70〜0.85に収まる安定した関係です。
相続の実務では、まず路線価で税務評価額の目安を立て、次に公示地価で周辺の地価水準を確認し、最後に成約価格で実際の取引動向を確かめる、という三段階で読むのが確実です。路線価だけ、あるいは成約価格だけで判断すると、それぞれの指標が持つ「公示地価からの距離」を見落とすことになります。
なお、路線価の水準や計算方法についてより詳しくは、路線価から評価額を計算する基本式を整理した[路線価から評価額を計算する方法](/insight/T-061)、公示地価と路線価の違いをデータで読んだ[地価公示と路線価](/insight/T-063)もあわせてご覧ください。
ご自身の土地の路線価と、実際の取引価格の水準を具体的に知りたい場合は、査定フォームからお問い合わせいただけます。所在地と簡単な条件をお知らせいただければ、成約データに基づく相場の目安をご案内します。
データ出典・集計条件
- 路線価・公示地価: 国土交通省「不動産情報ライブラリ API(XCT001)」・2024年単年・15,975件(38都道府県・806市区町村)。rosen_priceがNULLまたはcurrent_priceが0以下の行は比率集計から除外。
- 実勢価格(成約価格): 国土交通省「不動産取引価格情報」・成約価格情報・宅地(土地と建物)・2021年第1四半期〜2025年第4四半期・248,094件。成約N≥30・公示住宅地N≥5の628市でマッチング。
- 価格はすべて中央値(median)で集計。単位は円/㎡・万円/坪・倍・%。
- 路線価/実勢比率(約43.6%)は公示地価を共通基準とした推計値であり、路線価地点と成約物件の直接マッチングではない。
- 路線価データ15,975件はXCT001カバレッジ(都市部中心・全体の約39%)の部分サンプル。
- 将来価格の予測は行わない。実績データから判断材料を示すものであり、投資助言ではない。
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