公示地価単独の乖離率中央値は+92.21%(N=706セル)です。公示・基準地価を合わせた全国集計では+89.98%、対象は714市、N=1,222の市×物件種別区分でした。
ただし、土地のみの地価と建物価値を含み得る成約単価の比較で、同一土地の一対一比較ではないため、個別土地へ全国倍率を直接掛けてはいけません。
公示地価と実勢価格の乖離はどれくらいか
結論は「全国では成約単価のほうが高い区分が多いが、公示・基準地価との乖離率を個別土地へ掛けてはいけない」です。
N=1,222のうち、成約単価が地価を上回る区分は96.4%(1,178セル)、下回る区分は3.6%(44セル)でした。乖離率の四分位範囲は+55.36%〜+149.95%です。
この分布は、地域や物件種別によって差が大きいことを示します。全国値だけで売却価格を決めず、自分の地域と物件種別へ絞る入口として使う数値です。
乖離率の計算式と、そのまま使えない理由
本記事の乖離率は、次の式で計算しています。
乖離率 =(成約単価中央値 − 地価中央値)÷ 地価中央値 × 100
成約単価と地価は、どちらも円/㎡の中央値です。市区町村コードで結合し、市×物件種別ごとに成約N≥30、地価N≥5を満たす区分だけを残しました。
分子の成約単価は「宅地(土地と建物)」または「中古マンション等」です。土地価格だけではなく、建物価値を含む場合があります。
一方、国土交通省の地価公示は、毎年1月1日時点の標準地について公示される正常な価格です。
一般の土地取引の指標、不動産鑑定の規準、相続評価・固定資産税評価の基準として使われます。
公示地価は、固定資産税評価額や相続税路線価そのものではありません。実勢価格は実際の取引で成立した価格です。
本分析は市区町村の中央値比較であり、同一土地の一対一比較ではありません。
したがって、+89.98%は「公示・基準地価にこの率を足せば売れる」という換算率ではありません。
対象地点、用途、面積、接道、形状、取引時点をそろえない限り、個別土地の価格判断には直用できません。
全国714市で見た全体像
集計に使った成約データは620,296件です。内訳は中古マンション等372,202件、宅地(土地と建物)248,094件です。
地価データはN=41,416地点で、公示地価25,994地点、基準地価15,422地点を使いました。成約と地価を市区町村単位で結び、価格は中央値で比較しています。
物件種別を分けると、宅地(土地と建物)は+77.86%(N=679セル)、中古マンション等は+110.08%(N=543セル)でした。
中古マンション等の数値が大きいだけで、土地市場の乖離が大きいとは言えません。
専有面積を分母にした建物込みの成約単価と、土地だけの地価では価格の意味が異なるためです。
都道府県ごとの違い
宅地(土地と建物)の都道府県別中央値には、次の差がありました。
| 都道府県 | 乖離率中央値 | N |
|---|---|---|
| 新潟県 | +224.68% | 11セル |
| 栃木県 | +202.11% | 11セル |
| 茨城県 | +179.24% | 21セル |
| 滋賀県 | +130.44% | 11セル |
| 宮城県 | +102.89% | 15セル |
| 広島県 | +58.81% | 18セル |
| 奈良県 | +43.92% | 23セル |
| 東京都 | +40.45% | 49セル |
この表から確認できるのは、対象セルの中央値に差があることまでです。
取引量、地価地点の配置、物件条件を調整した因果分析ではないため、「地域属性が差の原因」とは断定できません。
自分の地域を読むときは、順位よりNを先に確認します。そのうえで、同じ市区町村、同じ物件種別、近い面積・立地の成約事例へ絞り込みます。
住宅地・商業地・工業地で違う
用途と物件種別を分けると、比較口径の違いがより明確になります。
| 用途 | 物件種別 | 乖離率 | N |
|---|---|---|---|
| 住宅地 | 宅地(土地と建物) | +77.78% | 669セル |
| 住宅地 | 中古マンション等 | +115.32% | 530セル |
| 商業地 | 宅地(土地と建物) | −4.62% | 267セル |
| 商業地 | 中古マンション等 | +18.84% | 267セル |
| 工業地 | 宅地(土地と建物) | +109.83% | 177セル |
公示地価の中央値は、住宅地83,500円/㎡(N=16,037地点)、商業地185,000円/㎡(N=5,164地点)、工業地70,800円/㎡(N=2,189地点)でした。
同じ全国集計でも、住宅地と商業地では結果が反対方向になる場合があります。
物件所在地の用途と、比較対象の物件種別をそろえない数値は、売却判断の材料として弱くなります。
地価ソース別では、公示地価が+92.21%(N=706セル)、基準地価が+108.59%(N=617セル)でした。どちらを参照したかも比較条件として残してください。
公示地価を成約単価が下回る都市
成約単価が地価を下回る区分もあります。宅地(土地と建物)では、福岡市中央区−58.65%(N=成約102・地価64)、大阪市中央区−46.21%(N=成約35・地価60)でした。
京都市中京区は−45.35%(N=成約338・地価38)、東京の港区は−19.72%(N=成約78・地価110)です。
反対に、甲賀市は+516.11%(N=成約86・地価42)、上川郡東神楽町は+447.93%(N=成約32・地価8)、福島県伊達市は+445.51%(N=成約47・地価25)でした。
大きな正負の値は、個別物件へ使う倍率ではなく「比較条件をさらに絞る必要がある」という注意信号です。特に建物込み単価と土地のみの地価を比べる限界を先に確認します。
比較・保存・保留・相談の順で使う
まず、公示地価の調べ方に沿って近い標準地を確認し、基準地価と公示地価の違いを区別します。評価時点、用途、駅距離、接道、容積率を控えます。
次に、地域・駅の成約相場を確認し、同じ用途・近い面積の成約事例へ絞ります。土地のみと土地建物を混ぜず、形状、接道、権利、建物状態も比較条件へ加えます。
地価公示と路線価の違いと固定資産税評価額と実勢価格も分けて確認します。比較した地域、物件種別、期間、N、評価時点を保存してください。
条件がそろわないときは、結論を保留するのが合理的です。
世田谷区でも中古マンション等は+23.84%(N=成約6,806・地価188)、宅地(土地と建物)は+33.14%(N=成約1,986・地価188)と種別で差があります。
個別の売却可能額が必要なら、全国倍率ではなく近隣の同種成約を基に査定で確認します。
税務や相続の評価は目的と基準日が異なるため、対象資料をそろえて専門家へ確認してください。
集計条件: 出典は国土交通省の不動産情報ライブラリおよび地価公示・基準地価。
成約期間は2021年〜2025年。単位は円/㎡、価格は中央値。市区町村コードで結合し、成約N≥30・地価N≥5の区分を対象としています。